山下達郎『COME ALONG』は今こそ有効? シリーズ最新作が伝えた“ラジオ”の強み

参考:2017年7月31日~2017年8月6日の週間CDアルバムランキング(2017年08月14日付)

山下達郎『COME ALONG3』

 初登場1位はNMB48の3作目『難波愛〜今、思うこと〜』。15.9万枚という数字で他のアーティストを切り離しています。1作目の『てっぺんとったんで!』は初週32.8万枚、次作『世界の中心は大阪や〜なんば自治区〜』も32.5万枚だったので、今回のセールスには少し雲行きの怪しさも感じられますが、いやいや、それでも15万枚ってやっぱりすごい数字です。

 2位以下も景気のいい数字が並びます。UVERworldの『TYCOON』は8.2万枚。3位のPKCZ®『360°Chamberz』は4.2万枚。こちらは聞きなれぬ名前のグループですが、EXILE HIRO、DJ MAKIDAI、DJ VERBAL(m-flo)、DJ DARUMA(ex.DEXPISTOLS)による最新ユニット。LDHのボスが新たにブチ上げたクラブ対応型スーパーチームといった趣であり、錚々たるゲストが登場する内容も豪華絢爛。初週で4万枚を突破するのもおおいに納得です。

 普段のオリコンチャートは3位〜4位ぐらいから推定売上枚数が1万台になり、9位や10位では数千枚に落ちていくのですが、今週は4位の作品でも2.8万枚。他の週であれば1位かもしれない数字が続きます。そして、この4位に登場した山下達郎こそが今週の主役。4位の『COME ALONG 3』、10位の『COME ALONG 2』、そして11位に隠れていた『COME ALONG』までを含めて、今週のチャートはさながら「ヤマタツのカム・アロング祭り!」状態なのです。

 そもそも『COME ALONG』とは何なのか。これは山下達郎のオリジナルアルバムではなく、1979年にスタッフの発案で作られた販売促進用レコードです。A面は当時のディスコサウンドをDJ風につなぎ、B面は小林克也が陽気にトークしながら山下達郎の曲をノンストップでかけまくる。イメージとしては「ハワイの架空のラジオ・ステーション」。そんな面白い音源が全国レコードショップの店頭で流してもらうための販促グッズとして作られていたのです。

 店内で『COME AlONG』を耳にしたファンは、当然「これは何だ?」と騒ぎ出しますし、好評だったため数年後にはシリーズ第二弾も作られました。ファンの声に応えてのちに商品化もされますが、山下達郎本人は長らくこの企画には否定的だったそう。自分の曲は単なるBGMではない、ディスクジョッキーのお喋りにかき消されてしまうものではない、という気持ちが強かったようです。ポップミュージックがまだ十分な市民権を得ていなかった時代。レコードがCDに取って代わられるなんて誰も予想していなかった時代の話です。

 最初の『COME ALONG』から33年。いよいよ完成したのがシリーズ第三弾の『COME ALONG 3』。小林克也のご機嫌なDJから始まり、山下達郎の夏の名曲がこれでもかと流れ続ける至福のラジオ・ステーション。コンセプトは前2作と同じですが、大きく違うのは全体を山下達郎本人が監修していること。架空のラジオ番組というコンセプト、DJトークを挟んで曲がどんどん流れていく構成が、「今ならパッケージとして有効」という判断があったのだと思います。

 山下達郎は、5年前に初のオールタイム・ベスト『OPUS 〜ALL TIME BEST 1975-2012〜』を出し、大ヒットを記録しています。あの作品を出した背景には「CDというメディアが、そろそろ終焉を迎えそうな雰囲気が出てきた」という時代の読みがありました。レコード会社が健全に動いているうちに、ちゃんとキャリアを総括しておきたい。数年後にはそれさえできなくなるかもしれない。そんな危機感を持っていた彼の動きを倣うように、以降は多くのベテラン・アーティストから3枚組のオールタイム・ベストが届くようになりました。そんな山下達郎が、今回は自ら『COME ALONG』のパッケージ化に動いた。これはとても興味深い流れではないでしょうか。

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