ジョン・ライドン、“人生の醍醐味”を語る「俺は永遠に前しか見ないぜ」

「俺が問題なくやれる仕事と言ったら、音楽業界の外にしかなかった」

――はい。それで、このディスク3にはTime Zoneの「World Destruction」も収録されていますね。当時、あなたとあのアフリカ・バンバータがデュエットしているということで、もの凄くワクワクして聴いていたんですが……。

ジョン・ライドン:ああ、しかもあれはラップが台頭してくる前の話だからな。

――ええ。で、あなたはこのデュエットの話がバンバータの側から持ちかけられた話だと書かれていましたが、彼の音楽に対してはどんな印象を持っていましたか?

ジョン・ライドン:あー、俺が知ってたのはDJとしての彼だったんだ。それもニューヨーク界隈じゃピカイチの、素晴らしいDJとして知られてた。彼は、AC/DCみたいなヘヴィ・メタルを、実に見事にKraftwerkとミックスしちまうんだよ。で、当時ニューヨークにいた黒人やプエルトリカンの若い連中は、独特の跳ねるようなダンス・グルーヴを持ったそんな音楽はいまだかつて聴いたことがなかったんだな。つまり、彼の当時の仕事ぶりはたいそう興味深いものだったんだ。それとトースティング(toasting)、つまり音楽に合わせて喋るってやつだが、これは元々ジャマイカにルーツがあった。ジャマイカではトースティングと呼ばれてたんだ。それが後にラップになったんだよ。

――はい。

ジョン・ライドン:で、俺の方は一体それがどういう名前で呼ばれてるかも分からないままスタジオに入ったわけだが、まあ彼とのレコーディングは楽しかったね。俺はその時に彼を通じてビル・ラズウェルに会ったんだ。で、この先何かあったら声かけてみようと思って、記憶の片隅に置いておいたんだよ。

――なるほど。

ジョン・ライドン:で、それが終わったあと、俺たちはもうひとつ別のプロジェクト、Golden Palominosってやつをやっただろ。あれも同じくらい楽しかった。あの頃は確か、「ジョニー・ライドンがよりにもよってレイド・バックしたウェスト・コースト・ミュージックを歌ってる」なんて言われたもんだけどな(笑)。

――みんなビックリしたんでしょう。

ジョン・ライドン:ああ、けど俺は結構色んな奴らと、色んなことをやってるんだぜ! カントリー系のアーティストたちとだって、何度も一緒に仕事をしたことがある。それは俺にとっちゃ願ったり叶ったりなんだ。色んなスタイルの音楽の世界に入っていって、バックグラウンド・ボーカルでも何でもやらせてもらいたいんだよ。なぜってそいつは俺にとってだけでなく、俺を招いてくれた相手にとっても大いなるチャレンジになるだろうからな(笑)。

―――ははは、確かにそうでしょうね(笑)。

ジョン・ライドン:俺はクレジットも要らないし、肩書や冠も必要ない。ただ、自分が手伝うことでレコードがより良くなったって言ってもらえれば、それで十分なんだ。まあ、そういう形でやってきたのは、元はと言えばPiLに対するレコード・レーベルのプレッシャーが厳しかったせいなんだけどな。俺は随分長いこと、経済的な事情で何ひとつリリースできない時期があったんだ。契約上、もの凄い額の借金を背負わされてたからさ。俺のキャリアはまるで深い穴の底から出られない状態に置かれてるようなもんだった。俺が問題なくやれる仕事と言ったら、音楽業界の外にしかなかったんだ。だからTV番組制作の仕事なんかをやってたわけでな。

――ああ、そうでしたね。

ジョン・ライドン:たまに音楽の仕事で声がかかっても、いつだって名前を伏せてやるしかなかった。組む相手には、絶対俺の名前を出してくれるなよ、って厳命してたよ。そのせいかどうか、どれも大した金にはならなかったしな(苦笑)。万一税務署がこの会話を盗聴してた時のために言っとくぜ(笑)。

――はははは!

ジョン・ライドン:けど俺はそんな状況にも決してメゲることはなかったし、自己憐憫に浸って悶々と鬱状態になったりもしなかった。それがなぜかと言えば、さっきも言ったが、俺には親父とオフクロから受け継いだ確固たる美意識、価値観てものがあったからだ。彼らが俺に叩き込んだ人生の大原則のひとつは、決して自分を可哀想だと思わないこと、ってやつなんだよ。なぜなら自分の最大の敵は自分だから、ってな。

――なるほど。

ジョン・ライドン:だから俺は自分を可哀想だなんて思ったことはないし、そのおかげかどうかは分からんが、俺には敵はひとりもいないんだ。無論、昔から俺を妬む奴らはいたが、俺は奴らを敵とみなしたことはない。一度として、ただのひとりもな。なぜって、時に俺は奴らの俺に対するこの上なくネガティブなコメントに接することで、この上ない快感を覚えるからさ(笑)。おかしなもんだが、俺にとっちゃそいつはご褒美なんだ(笑)。それが俺の人生に対するアプローチなんだよ。

――はははは、面白いですねえ(笑)。バンバーターとのレコーディング・セッションについて、何か特に印象に残っているエピソードはありますか?

ジョン・ライドン:ああ、とにかくメチャメチャ楽しかったのを覚えてるよ。あの時一緒に関わってくれたメンツの名前はさすがに思い出せないけど……でも、とにかくずっと気持ちが高揚してるような時間だったよ。それと、どうしてももの凄い量の言葉の応酬になるんで、俺があのコーラス部分の<Time zone~♪>ってのを提案したんだ。何しろ手加減なしに言葉がどんどん投げつけられる状態で、あまりに言葉数が多過ぎて単調になりそうだったから、何とかブレイクするところを作る必要があると思ってな。で、ビンゴ! そいつが巧いことハマったわけさ。きっと他に何か試したとしても、あれ以上にドンピシャに来るもんはなかったと思うね。結局のところ、自分がその時その時で関わってるプロジェクトの制作過程を、どれだけ楽しめるかってことがポイントなんだよな。どれだけ事前準備をしたってし過ぎることはない気がするもんだけど、一旦スタジオに入ったら、大抵は準備してきたもんなんか全部投げ捨てなきゃならなくなる。なぜかと言えば、事前準備ってのはともすれば一元的な発想に基づいてるからどうしても単調になりがちで、現場で新しいインスピレーションが生まれた時に、ひとつ想定が崩れると切り返しが利かないからだ。結局はこれも、自由で開かれた、柔軟な発想を持つのが重要ってところに集約されるわけだな。

――なるほど。……ええと、というところで、質問は以上です。

ジョン・ライドン:おお、そうか、それじゃ俺のあげられる答えもここまでだな(笑)。ありがとうよ。ピース!

(文=小野島大/訳・取材=田村亜紀)

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