ぼくのりりっくのぼうよみが見せた、シンガーとしての可能性  初ワンマン詳細レポート

ぼくりり、初ワンマンレポ

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歌い手としての幅を示したカバー曲

 この日のライブでは全部で19曲の楽曲が披露されたが、そこには自身の曲ではないカバー曲も含まれている。前述の「noiseful world」も手掛けた作曲家でもあるにおのオリジナル曲3曲(におをステージに迎えて「余所事」「かつてのカリスマ」「rain stops, good-bye」が演奏された)、ぼくりりのルーツでもあるJamiroquaiの「Virtual Insanity」とEGO-WRAPPIN'の「a love song」、そして何かと比較されることも多い宇多田ヒカルの「First Love」の計6曲である。

 今回のライブの面白かった点として挙げられるのが、これらのカバー曲が彼のまだ見せていない魅力をプレゼンするものとして機能していたところである。たとえば「かつてのカリスマ」ではストレートな8ビートの楽曲が意外とぼくりりとも親和性があることを証明していたし、「rain stops, good-bye」のシンプルな情景描写に徹した歌詞を切々と歌うぼくりりの姿には「こういう感じで歌詞に技巧を凝らさなくても成立するのでは?」とすら思ってしまうような説得力があった(アイドル的なものを期待している一部のファンにとってはこっちの方向性の方がもしかしたら受けが良いのかもしれない、などと本気で思った)。また、「Virtual Insanity」では、全編英語の歌をスムーズに乗りこなして楽曲のグルーヴをうまく表現していた。「ラッパーでもありシンガーでもある」とでも言うような立ち位置であるがゆえに意外と見えづらかった「歌い手としての懐の深さ」が、それぞれのカバー曲のパフォーマンスを通じて示されていた。

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 カバー曲の披露がうまくはまったのは、ぼくりりのアーティストとしてのあり方に関わる部分も大きいのかもしれない。ぼくりりの作品にはしっかりした世界観があり、それはもちろん彼自身の意思によって形作られているわけだが、その一方で楽曲作りについてはトラックメーカーとの二人三脚というプロセスをとっており、いわば「他者の視点が介在する状態での創作スタイル」が基本となっている。自分の表現したい世界を持っている、しかし周囲との相互作用も大事にするというバランス感覚のある彼にとって、「他人が作った楽曲に歌だけで参加するコラボレーション」とでも言うべきカバー曲のパフォーマンスは彼にとって心地の良いものだったのではないかと思う。

 今回のカバー企画は「ファーストワンマンだからこその曲数の補充」的な意味合いもゼロではなかったと思われるが、結果的にこの取り組みはそういった思惑を超えてぼくりりのアーティスト性を踏まえたうえで彼の潜在的な強みにスポットライトを当てる素晴らしい企画となった。今後オリジナル曲が増えていく過程でカバー曲に取り組む必要性は低下してしまうかもしれないが、今回だけにとどまらずこれからも同様のトライを続けてほしい。

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