ぼくのりりっくのぼうよみ、“多様性の時代”をシビアに語る「選択肢自体はいっぱいあるけど、安直なものがデカ過ぎる」

ぼくりり、”多様性の時代”を語る

 ぼくのりりっくのぼうよみが7月20日、EP『ディストピア』をリリースした。収録曲の「Newspeak」、「noiseful world」、「Water boarding」では、ジャズの要素を取り入れたリリカルでポップな音世界を生み出すと同時に、ジョージ・オーウェルのディストピア小説『1984』に言及しながら、ネット社会を生きる現代人の意識についてシニカルな筆致で綴っている。さらには、“CDの遺影”を抱えたアートワークをはじめ、音楽業界やクリエイティブのあり方についても問題提起を行なった本作を、デビュー半年を経たぼくりりは、どんな心境で、いかなるコンセプトの元に作り上げたのか。今回のインタビューでは、初回限定盤に封入された書き下ろし短編小説についても話を聞きつつ、より多様性を求めたというトラックの制作過程などから、現在の彼の創作スタンスを探った。(編集部)

「今は語彙が減って、思考力が弱くなっている」

ーー新作EP『ディストピア』、楽曲としてはとてもポップに仕上がってますね。

ぼくのりりっくのぼうよみ(以下、ぼくりり):ありがとうございます。ポップにまとめるところは、けっこう意識しました。

ーー初回限定盤に封入された小説にも表れているんですが、言葉の面では閉塞感、重たく暗い部分がありながら、歌になると突き抜けている。

ぼくりり:そうですね。歌詞の世界観は思ったより鬱々とした暗いものになっちゃったんですけど、全体としてはまた別の印象があるかなと。

ーー『ディストピア』というタイトルもそうですが、ジョージ・オーウェルの小説『1984』に出てくる「Newspeak」という新言語を冠した楽曲も収録されています。この小説が作品を作るきっかけとなったのでしょうか。

ぼくりり:最初から『1984』をフィーチャーしようと意図したわけではなくて、普段、僕が暮らしているなかで思ったこと――つまり、語彙が減って、思考力が弱くなっているよね、みたいな曲を作っている途中で、「あ、これってオーウェルみたいな感じだな」と気づいたんです。その象徴として「Newspeak」という言葉を後から乗っけて。

ーー爆発的にネットワークが広がる中で、実は不自由になっている部分があると。それは本作の一貫したテーマだと思いますが、ご自身はどんな場面でそういうことを感じますか。

ぼくりり:Twitterを見ているとよく感じますね。良い悪いということではなく、文字数制限もあって、どうしても言葉を削る方向に行くじゃないですか。ある考えを伝えようとするとき、すべてを描写するのではなくて、過激な一部分だけを切り取る。インターネットって、そういうところがありますよね。ニュースサイトでも、見出ししか見ないで叩く、ということもある。「CITI」もそうですが、そのことに対して別に怒っているとか、戦うということではなく、「こうじゃないですかね」というくらいの温度ではあるんですけど。

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ーー楽曲制作という意味では、どんな順序で作っていったんですか?

ぼくりり:今回はイチから、「にお」さんという人と2人でつくりました。曲の原型を作ってもらって、リリックをそこにちょっと合わせて、というやり取りを何往復かして。ほぼ同時進行なんだけど、向こうが少し先、という感じでした。右足、左足…と自転車のペダルを回すような感覚というか。

ーー美しい曲でありながら、耳を澄ますと絶望的なことを歌っている、という捉え方も出来る作品だと思います。サウンド面ではどんなことを意識しました?

ぼくりり:「この音はぼくりりらしい」「この音はそうでもない」と、自分の方向性をいろんな人に決定されてしまうのが嫌で、いろんな種類の音楽をやろうと思いました。音楽的な完成度の高いものを目指すのは当然なんですけど、同じ方向にガッと進むより、少し蛇行して、いろんな畑を耕しながら進んでいきたいなって。

ーー今回は生音、鍵盤の音も効いてますが、耕した“畑”とは?

ぼくりり:ジャズテイストでポップなものをやろうと。ビッグバンド的なものも好きなので、もっとジャズっぽいものもやりたいな、と勝手に企んでいるんですけどね。聴き心地はいいのに、どこか張り詰めているものーー今作ではそれをがっちりやろうと思っていたんです。聴いている感覚と歌っている内容が実はあまりリンクしていないというか、それこそ2曲目の「noiseful world」みたいに、明るめのバラードで「感性が死んじゃう」みたいなことを歌ったり。におさんがJ-POPをがっつり通ってきている人なので、僕の歌詞、メロディーで生まれるものとのバランスがよかったと思います。

ーーあえて伺うと、「ぼくりり」の音楽活動はとても順調で、そのなかでネットというのはブースターの役割を果たしましたよね。そういう恩恵を受けつつ、同時にシビアな見方も持っているのが面白いと思うのですが、ご自身の中ではネットをどう位置づけていますか。

ぼくりり:インターネット自体はすごくいいものだと思っているんですが、それによって思考が分散することに、僕らがまだ対応できていないのかな、と思うんです。メールを打っていたら途中でLINEが来て、それに返事をしていたらフェイスブックの通知が来て、あらあらあら…って。単純に情報過多で、咀嚼する時間がないから、判断する間もなく右から左へ、という感じ。道具としては有用なもので、ただそれをうまく扱えているのか、という問題です。

ーーAIが人間より賢くなる、いわゆるシンギュラリティの到来も現実味を帯びてきました。

ぼくりり:ヒューマニズム的な観点から、そういう “無機的な進化”を悪だとする風潮もありますけど、僕はワクワクしますね。機械と人間の距離が近づいて、一体化するような未来、単純にすごい楽しみです。

ーー今はその手前の時代だと思うんですけど、この3曲で表現されているのはそれに対する戸惑いではなく、独特な距離感でしょうか。「現状報告」というか。

ぼくりり:そうですね。人間と機械が一体化していくときに、よりよくなって活躍する人と、ダメになっていく人がいると思うんです。要するに、これまでは働かなければご飯が食べられなかったけれど、「ロボットに任せて寝ていればいいや」と考えてしまう人がけっこういると思う。今回の曲では、そういう人たちのことを書いているんですよね。「Newspeak」なら、語彙がなくなって、考えられなくなって、感性を失う。「noiseful world」なら、情報を処理するのに時間と能力が追いつかなくなって、思考停止。そういう人たちが、“便利”な未来において何もしなくなる人たちなのかなと。僕はどちらかというとがんばって活躍する方の人間になりたいので、そのための意思表示でもあります。

ーー「Newspeak」的に語彙が減っていって窮屈になっていく中で、その突破口がもしあるとしたら、どんなことだと思います?

ぼくりり:単純に考える時間を増やして、思考する筋肉を鍛えればいいんじゃないかなと。何か新しい情報があるとき、それに対するアプローチは3種類くらいあると思っていて。つまり、頭ごなしに否定する、全面的に受け入れる、そして、「これはどうなの?」ってちゃんと検証する。この3番目の作業がどうしても足りていないように見えて、みんながそうしたらもっと楽しくなるのにな、と思います。『1984』と今回の小説を読んでもらって、それを素材にして検証作業をしてもらえたら楽しいですね。

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