兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第13回
ロックバンドは“フェス”とどう関わっていくのか? 兵庫慎司がライブ現場から考える
8月27日土曜日、きのこ帝国の日比谷野外大音楽堂ワンマンを観に行った。
今のきのこ帝国に加えて未来のきのこ帝国も見せるような、バンドの進化を表すすばらしいライブだったんだけど、観ながら「あ、そういえばきのこ帝国、この夏、フェスで見かけなかったな」ということに気づいた。
そしたらアンコールのMCで、佐藤千亜妃(ボーカル&ギター)が、今年の夏はフェスとかに出ないでレコーディングしていました、秋に新しいアルバムが出ます、と発表して、「ああ、なるほど」と納得した。
で、これ、いいことだな、と思った。
何が。きのこ帝国くらいのキャリアのバンドが、「今年の夏はフェスに出ない」という判断をする、ということがです。というか、そういう判断をできることそのものが、です。
なぜそう思ったのか、というのには、その1週間前に読んだ、クリープハイプ尾崎世界観の日記が関係している。有料メルマガ『水道橋博士のメルマ旬報』で連載が始まり、その第1回目が送られてきて、読んだばかりだったのでした。
この尾崎世界観の日記連載『苦汁100%』。初の小説『祐介』を読んで、これミュージシャンの余技じゃないなと思ったけど、日記を読んでそれが裏付けられたというか、とにかくおもしろいのでぜひみなさん読んでいただきたいが、それは置いといて。
その日記の中で尾崎は、雑誌の取材とロックフェスへの出演に関して、こんなことを書いている。
「それでも雑誌には出なければいけない。フェスも一緒。ある一定のポジションまで登りつめなければ、『あのバンド消えたな』で片付けられてしまう。今は、『敢えてやらない』という選択肢がない。周りがやってるから、という理由。小学生が親にオモチャをねだる時と同じ理由でバンド活動していくのは格好悪い。しっかり考えなければいけない」
これを読んで、なんか刺さったというか、「そうかあ」と思ったのだった。
しかも、これが尾崎世界観だというのが、よけいに刺さる。というのはーーファンはご記憶だろうがーークリープハイプは一昨年2014年の夏、「敢えてフェスに出ない」を実行したのだ。夏にワンマンツアーを入れて、フェスには一切出ない、というスケジュールを切って。
そして、その次の夏。『ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2015』、このフェスで……というよりおそらく日本のロックフェスでもっとも規模の大きいGRASS STAGEに立った尾崎世界観は、MCで「去年の夏はフェスに出ないことにして、ワンマンでツアーをやった。で、『やっぱり出ればよかった』と後悔した」というような話をしていた。
勝手に補足するが、夏にワンマンツアーをやったら動員的に苦戦した、だから後悔した、というわけではないと思う。全然そんなことはなかった、でも夏のその時期にフェスに出ていない、あえてそれに背を向けた自分たちって、はたしてどうなのか? みたいな疎外感を抱いたのではないか、と推測する。
なので「今は『敢えてやらない』という選択肢がない」という尾崎の言葉は、「周囲的に」とか「業界的に」という意味もなくはないだろうが、自身のそういう強迫観念も大きいのだと思う。彼のキャラクターを考えると。
確かに、新人ロックバンドにとって、デビューして最初にかけられるふるいが「フェスに出られるかどうか」になる、という側面はある。もっと言うなら、デビュー数年を経たバンドにとって、「フェスから声がかからなくなった時が一軍から落っこちた時」という見え方も、正直、ある。
というように、フェスへの出演が一種のバロメーターであり、ロックバンドの生命線になっているところもあるのは確かだろう。だからみんな(バンドもそのスタッフも含めて)必死に出られるようになろうとするし、出られるようになったら、出られる自分たちを維持しようとする。
で、そのうち、スタジアム規模でツアーができるくらいバンドが大きくなれば……ざっくり言うと「フェスよりもワンマンの方が動員規模が大きい」くらいになれば、「出たい時に、何年かにいっぺん出る」みたいな形でフェスと付き合えるし、そうなるのが理想だが、やはりそれはごく少数であって、それ以外の大多数のバンドは「いつまで出られるか」「今年は出られるかどうか」というラインで、戦い続けていくことになる。
そういえば尾崎世界観、2015年暮の幕張メッセ『COUNTDOWN JAPAN 15/16』出演時には、もっとも大きなEARTH STAGEで、「いつまでこのステージに立てるだろうかと考える」「いつか立てなくなってここより小さいステージになっても、出演すると思う。それが怖い」みたいなMCをしていた。
いや、そんなん大なり小なりみんな感じることだろうけど、客前で言ったりしないじゃん。わざわざ言わなくても。正直な人だなあ、と思った。そんな身もフタもない正直さも、彼をいいなあと思うところのひとつなんだけど。