兵庫慎司の「ロックの余談Z」 第13回
ロックバンドは“フェス”とどう関わっていくのか? 兵庫慎司がライブ現場から考える
で。僕は基本的にフェス大肯定派だし、今年も6月頭の『TAICOCLUB』から10月中旬の『朝霧JAM』までの間で9回の週末をフェスに当てているような奴だが(そのうち仕事として行ったのは『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』の2週末だけです)、バンドは何がなんでもフェスに出なきゃいけない、出られないと終わる、みたいなことになるのは、それはそれで不健康だと思う。
たとえば、今年の夏、ニューアルバムのリリースがあったユニコーンとスピッツが、どちらもフェスに出なかったのは象徴的だった。スピッツは7月27日、ユニコーンは8月10日がアルバムのリリース日。全国ツアーはスピッツが8月26日から、ユニコーンが9月3日からスタート。だからこの夏は、スピッツは毎年夏恒例の自身が中心になったイベント『新木場サンセット』『ロックロックこんにちは』『ロックのほそ道』への出演だけ、ユニコーンは奥田民生がサンフジンズで『ROCK IN JAPAN FESTIVAL』に出演したくらいだった。
で、リリースやツアーがない年は、普通にフェスに出たりする。リリースやツアーがある年でも、そのツアーが終わったところで夏になるスケジュールだったら、出る(2009年、復活したばかりのユニコーンがそうだった)。
ただ、フェスに自分たちのスケジュールを合わせることまではしない。さらに言うなら、「今年リリースとツアーがあるから、フェスに出てその宣伝をしたい」というふうには考えていない、ということだ。オファーくださった時期が、自分たちのスケジュールを鑑みて、無理がない時期なら、そしてバンドがライブをやれる時期なら、出ます。というふうに、フェスをフラットに捉えているのではないか。そのように僕には見える。
それ、スピッツとユニコーンだからそうできるんじゃないか。と思われるだろう。僕もそう思います。新人だったり中堅だったりのバンドが、同じように考えて同じように動くことは、相当難しいだろう。
まず、フェスがある種のロック・バンドの生命線になっている、というのは、事実としてあるし。で、もし、「それでも、今年の夏はフェスよりも優先したいことがあるから」と、オファーを断ったとする……って書きながら思ったけど、新人だとそんなこと、ほぼあり得ないな。
じゃあ、中堅ぐらいのバンドがそうジャッジしたとします。その場合、相手が絶大な人気を誇る巨大フェスだったら、断ったりしたら若干角が立ったりすることもあるかもしれない。
じゃあ地方とかの、そこまで大きくないフェスだったら断れるか、というと、それもなかなか難しいと思う。むしろ地方の方が、バンド的にもイベンター的にも「フェスの場でそのエリアのロックファンに自分たちをアピールして、ツアー時の動員につなげたい」という思いが強い、という側面もあるし。
それから、地方のイベンターとバンドって、我々の想像以上に強い信頼関係で結ばれているので、出演を請われると断りづらいというのもあると思う。地方のイベンターの担当者が、バンドにヘッドハンティングされて東京に来てマネージャーになる、というケース、本当に多いのです。それを見ていると「ああ、そういう関係性なんだなあ」と思ったりします。
というわけで、私は、フェスとバンドの関係がフラットになるといいなと思う者であるが、それがなかなか難しいという実感を持っている者でもある。なので、冒頭に書いたきのこ帝国のフラットなスタンスを、いいなあと思ったのだった。
まだ新人と言ってもいいキャリアだが、夏はフェスがあるからそれに合わせてスケジュールを組む、というやりかたをしていない。で、「フェスには出ない」というわけでもない。現に今年のゴールデンウィークの『JAPAN JAM BEACH 2016』には出演している。なんで。出られる状況だったから。というくらいのフラットさなのだと思う。
彼女たちの音楽性がああいう感じ、ざっくり言うと、何が何でも盛り上がるのを目指すのではない感じだから、そういうふうにフラットでいられるのだと思う。そう、音楽性的には、必ずしもフェスに適した感じではなかったりするバンドでも、新人だったらフェスに出ることを目指さなきゃいけない、という葛藤もあると思うし。
たとえば、ALは一切フェスに出ない。僕は彼らと接触したことがないので、なぜそうしているのか、それによって状況がどうなっているのかとかは知らないが、それがバンドの活動に致命的なダメージを与えている、というふうには見えない。
というふうに、みんなもっとフェスに対していろんなスタンスを取れるようになっていけばいいなあ、風通しよくなっていけばいいなあ、端的に言うと「フェス絶対主義」じゃなくなっていけばいいなあ、と思うわけです。
アンチフェスだからではない。フェスが大好きだからこそ、そう考えるのだった。
■兵庫慎司(ひょうご・しんじ)
1968年生まれ。音楽などのライター。1991年に株式会社ロッキング・オンに入社、2015年4月に退社、フリーに。「リアルサウンド」「RO69」「ROCKIN’ON JAPAN」「SPA!」などに寄稿中。フラワーカンパニーズとの共著『消えぞこない メンバーチェンジなし! 活動休止なし! ヒット曲なし! のバンドが結成26年で日本武道館ワンマンライブにたどりつく話』(リットーミュージック)が発売中。