香月孝史『アイドル論考・整理整頓』 第十三回:アイドルとファッション
夢みるアドレセンスの躍進にみる、ジャンルを“越境”する存在としてのアイドル
2000年代後半以降、グループアイドルシーンは常時、大規模で存在し続けるようになった。とはいえ、そのシーンに身を投じるグループの目指すところは、必ずしも一様ではない。自らを「アイドルである」と名乗り位置づけることによって参入することのできる今日のアイドルシーンの自由度は、様々なスタンスで「アイドル」になることを可能にする。「アイドルである」と名乗った上で、アイドルシーンの中で自らを「異端」的に見せ続けようとすることで差異化を図る戦略も活発に行なわれるし、また出自を他のジャンルに持つメンバーたちによって、暫定的ないし過渡的な活動として「アイドルグループ」が結成される場合もある。「アイドル」は確固たるジャンルとして成立しつつも、それらの存在をごく柔軟に飲み込んでしまう。
その中で、当初は他ジャンルの人々による過渡的な企画のようであったグループが、「アイドル」としてのキャリアを重ねるにつれ、歌とダンスを中心とした“グループアイドル”として、スタンダードな活動へと自らを強く方向づけていく流れは興味深い。3月6日深夜のNHK『MUSIC JAPAN』に出演した5人組アイドルグループ・夢みるアドレセンスも、そうした軌跡を描いている進境著しいグループとしてあげられるだろう。結成当初はティーン向けファッション誌モデルを中心にメンバーが集結、演技も歌・ダンスも活動内容に含みながら「女優を目指す」ことが謳われ、アイドルグループとして存在しながらも、シーンとの距離感やスタンスを探るような趣きを感じさせるグループだった。しかし彼女たちは年を追ってパフォーマンスを洗練させながら、2015年にメジャーデビュー、今春には志磨遼平、首藤義勝の楽曲提供によるシングルをリリース、そしてZepp DiverCity Tokyoをファイナルに据えた東名阪ワンマンツアーを控え、アイドルシーンのもっとも基本的な活動である、“楽曲を軸にしたパフォーマンス”にますます傾斜しようとしている。直近の彼女たちの活動スタンスからは、「モデル」や「女優」といった、ある意味で留保的になりうる肩書きをそのまま背負うのではない打ち出し方を見てとることができる。すなわち、モデルという出自からくる利点を安直に強調するでも捨てるでもなく、あくまでグループアイドルであるというアイデンティティの中に昇華することで、強力な存在感を放つようになってきた。結成までのキャリアがなんであれ、現在「アイドルであること」を十分に引き受けながら、その「アイドルであること」を屈託なく乗りこなしているような強さが夢みるアドレセンスにはある。
重要なのは、アイドルシーンに軸足を下ろしつつあるように見える夢みるアドレセンスが、同時にそのルーツからくるスタイリッシュさやファッション分野との相性の良さをも当たり前に持続していることだ。ティーン誌モデルを出自とする彼女たちは、そのバックボーンによるファンからの支持もキープしていることを考えれば、ジャンルをまたいでアイドルシーンに越境してきた存在でもある。そうした越境者が異端や例外的なものとしてではなくアイドルシーンの重要グループになることに、このジャンルの懐の興味深さがある。そもそも、「アイドル」はいくつもの意味で越境に向いた場である。アイドル自身というアイコンを介することで、このジャンルは他のさまざまな音楽ジャンルをベースにした楽曲をポップなものに仕立てる装置になっている。その意味で、たとえばロックやヒップホップといった音楽ジャンルとは言葉の位相が異なる、複合的なニュアンスのジャンルともいえる。
同様に、今日のアイドルというジャンルは、アイドルとして振る舞う当人たちの出自の多様さも飲み込む。その人々の本来の足場がモデルであれ役者であれ、シーン内に容易に包摂してしまう。であればこそ、そのファッションとの相性も「アイドル」という肩書きのみでその可否を測ることはできない。夢みるアドレセンスは越境者でありつつアイドルシーンに足場を築くことで、そのようなジャンルの豊かさを垣間見せている。