夢みるアドレセンスの躍進にみる、ジャンルを“越境”する存在としてのアイドル

 アイドルとファッションとの間の越境ということでいえば、本来難しいのは逆のベクトルの方、すなわちアイドルシーンから登場した人物がファッション誌等の分野に踏み込む場合になる。「畑違い」のアイドルがモデルになることは以前からあるが、無条件に支持を得られるわけではない。アイドルというジャンルが帯びている「軽み」は、ポップさを担保する利点と同時に、軽薄さというレッテルも常に内包する。もっとも、こちらのベクトルでも現在、越境の可能性を感じさせる兆候がうかがえる。近年、アイドルグループからファッション誌のモデルに起用される際、そこには媒体とアイドルとをできる限り時間をかけてすり合わせようとする姿勢が目立つ。たとえば乃木坂46のメンバーが相次いでファッション誌の専属モデルに登用され話題を呼んだのはこの一年ほどだが、乃木坂46はCDデビューの2012年から白石麻衣などを継続的にファッション誌に送りつつ、最初から媒体内で目立つポジションに強く推すのではなく、長期的にその媒体の性質になじませ、またグループ自体のブランディングもはかりながら、ファッション分野との関わりを強めてきた。女性グループとして枠組みを広げて考えるならば、E-girlsのメンバーなどにも同様に、長期的なファッション誌との関わり合いが見られるだろう。あるいは、雑誌『LARME』のように創刊から白石らアイドルを一貫してモデル陣に加えながら、それ自体を売りにするよりも、あくまで雑誌の提供する強い世界観の中に溶けこませつつ成功したような例を考えれば、アイドルというジャンルの受容のあり方や越境への可能性は部分的に変容しつつあるようにみえる。

 もちろん、アイドルのモデル起用を固定ファン目当ての戦略と捉えるのはたやすいし、そうした計算が存在するだろうことを否定する必要もない。ただし、アイドルに限らず活況にあるジャンルが広く他ジャンルへ越境するポテンシャルを秘めるのもまた自然なことだ。本連載の三~五回で掘り下げたように、アイドルの身体に求められるパフォーマンスは、さまざまなレベルの演劇性をはらむ。言ってみれば、いくつものレベルで展開される虚構の世界観やイメージをアイコンとしていかに体現できるか、そのことが彼女たちの職能になる。そうした性質がファッションという場にいかに受け入れられるのか、アイドルシーンそのものが活況であり、多様なスタンスのグループがそれぞれのあり方で支持を受ける現在だからこそ、その越境へのチャレンジも活発に続いているのだろう。

■香月孝史(Twitter
ライター。『宝塚イズム』などで執筆。著書に『「アイドル」の読み方: 混乱する「語り」を問う』(青弓社ライブラリー)がある。

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