嵐は“日本らしさ”をどうアップデートしたのか? 柴 那典が『Japonism』全曲を徹底分析

10.青空の下、キミのとなり

作詞:wonder note, s-Tnk
作曲:Gigi, wonder note
編曲:metropolitan digital clique

 シングル曲。ということもあってか、サウンドの方向性は、アルバム全体のコンセプトからは少し浮いている。イントロのワブルベースなどは、むしろ前作『THE DIGITALIAN』に通じるテイスト。

11.Rolling days

作詞・作曲:Octobar
Rap詞:櫻井 翔
編曲:pieni tonttu

 櫻井翔ソロ曲。ミディアムテンポの8ビートからスパニッシュで情熱的なサビに展開する曲調は、ブラック・ミュージックへの傾倒を見せてきた彼にしては新鮮。声を落としてセクシーさを出した低音のラップが見せ所か。

12.イン・ザ・ルーム

作詞:小川貴史
Rap詞:櫻井 翔
作曲・編曲:Jeremy Hammond

 この曲のキーワードはサビの頭で歌われる「ルージュ」だろう。これも80年代歌謡曲を髣髴とさせるワード。ジャズやフュージョンをの風合いを忍ばせつつ横ノリのグルーヴを展開するAORテイストのサウンドに、色気を感じさせる歌詞。このあたりから彼らがこのアルバムで掲げた「原点回帰」というもう一つのコンセプトの意味がわかってくる。「原点」という言葉からは、嵐自身のスタート地点だけでなく、ジャニーズの系譜、日本の男性アイドルポップスのヒストリーをもイメージさせられる。

13.マスカレード

作詞・作曲:HYDRANT
編曲:船山基紀

 この曲はアルバムのもう一つのコンセプトである“原点回帰”=“ジャニーズらしさの継承”が最も顕著に現れた一曲。マイナーキーでコクのあるメロディ、ドラマティックな味付けの強い展開、日本語と英語が混じりあった歌詞と、まさに「80年代アイドル歌謡曲」のフォーミュラにのっとった楽曲になっている。「SMAP以前」「J-POP以前」の男性アイドルだ。

 「マスカレード」という曲名は「仮面舞踏会」という意味。そして、この曲のアレンジを担当した船山基紀は少年隊「仮面舞踏会」の編曲も担当している。つまり、ここには嵐が継承する「ジャニーズらしさ」のモデルが少年隊にあったことが示されている。このことも大きなポイント。

14.MUSIC

作詞:AKIRA
作曲:古川貴浩
編曲:吉岡たく

 二宮和也ソロ曲。これまでは『THE DIGITALIAN』の「メリークリスマス」など作詞作曲を自身で担当することもあったが、今回は提供曲。それでもファニーな曲調にゲーム・ミュージック的な電子音のインサートなど、やはりアルバム全体のテイストからは浮いた仕上がりになっているのが「らしさ」と言えるかも。

15.伝えたいこと

作詞:ASIL,s-Tink
作曲:Fredrik "Figge" Bostrom, Susumu Kawaguchi
編曲:pieni tonttu

 シャッフルビートであたたかなメロディのミディアム・チューン。クリスマス・ソングにも通じるハートウォーミングなアレンジはアルバム全体の中では最も保守的な曲調だが、「ありがとう」という歌詞が歌われるこの曲は、いわばファンに向けたタイプの曲と言えるだろう。

16.Japonesque

作詞:MiNE, R.P.P.
作曲:sk-etch, MiNE
編曲:ha-j, sk-etch

 こうしてアルバムを全曲聴いていくと、彼らが掲げた“外から見た日本”“原点回帰”というコンセプトが、サウンドとしては「和楽器とブラック・コンテンポラリーの融合」「80年代アイドル歌謡曲の継承」という二つの軸に収束していったことが伺える。その二つが最も絶妙なバランスで結実しているのが、ラストにおさめられたこの曲。カッティング・ギターとグルーヴィーなベース、そして鼓の小気味いいビートが引っ張るファンク・ポップ。転調の巧みさと展開の目まぐるしさで飽きさせない曲調になっている。ここ数作では壮大なスケール感を持ったナンバーでエンディングに到達する構成を見せていたが、「♪らっちゃっちゃ〜」と歌うこの曲の「軽さ」もポイントだろう。

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