嵐は“日本らしさ”をどうアップデートしたのか? 柴 那典が『Japonism』全曲を徹底分析

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(C)タナカケンイチ

 嵐のニューアルバム『Japonism』が素晴らしい。

 初週で80万枚以上を売り上げ、発売から1ヶ月を待たずして早くもミリオンセラーにも認定。前作『THE DIGITALIAN』を上回るセールスとなっている本作。しかし、それは単なる売れ線のポップソング集にはなっていない。日本を代表する国民的なグループとして君臨する今だからこそ、その役割をきちんと背負い、一枚を通して明確なコンセプトを示す「発信型」のアルバムに仕上がっている。

 タイトルが象徴するように、アルバムのコンセプトは“日本”。それも“外から見た日本”がテーマだ。実際、和楽器の音色や「サムライ」「大和撫子」という歌詞の言葉など、アルバムには「和」の要素が点在している。

 一方、インタビューなどで本人たちが語っているところなどによると、今作のコンセプトには“原点回帰”というテーマもあったという。では、なぜ嵐にとっての“原点回帰”が“外から見た日本”だったのか? この原稿では、そのことについて、全曲解説とともにじっくりと考察していきたい。

 長いので最初に結論を書いておくと、キーポイントは、このアルバムが単に伝統的な“日本らしさ”のイメージを再現するものになっていないところにある。基本は和洋折衷のサウンドで、そのベースにあるのは「80年代歌謡曲」と「ブラック・ミュージック」。そして、その背景には、ジャニーズ事務所が数十年にわたって積み重ねてきたエンタメ文化の系譜が横たわっている。前作『DIGITALIAN』では先鋭的なリズムや最先端のテクノロジーを取り入れた嵐が、今一度その系譜を自らの足跡に重ね合わせて“日本らしさのアップデート”を行ったのが今作『Japonism』ということなのである。

 ちなみに、“日本らしさのアップデート”というのは、アルバムだけの話ではない。嵐が今年に行ってきた公演にも繋がるモチーフでもある。6月に東京・大阪で行われた『嵐のワクワク学校』は“日本の四季”がテーマ。9月に行われたコンサート『ARASHI BLAST in Miyagi』でも、盆踊りなどのアレンジ、地元の高校生との合唱やすずめ踊りなど東北土着のエッセンスを取り入れたステージを見せていた。

 そういうことを踏まえて、アルバム『Japonism』から一曲ずつピックアップしつつ、そこで彼らが表現しようとしているものを読み解いていきたい。

01.Sakura

作詞・作曲:eltvo
編曲:佐々木博史

 鮮やかなストリングスのフレーズを意欲的に使ったダンスナンバー。シングルとしても鮮烈な印象を残したが、アルバムのオープニングとしても効果的な役割を果たしている。

 こういうエレクトロとストリングスが絡みあうダンスポップの曲調は、イギリスのクリーン・バンディットが昨年にデビュー曲「ラザー・ビー」で大ヒットを記録して以降、海外のメインストリームの音楽シーンの潮流の一つとなっているもの。

Clean Bandit - Rather Be ft. Jess Glynne [Official Video]

この「ラザー・ビー」という曲も、「ロンドンから見た日本」をモチーフにしている。東京で撮影が行われたミュージックビデオも象徴的だ。そこに通じるようなサウンドでアルバムがスタートしたことには大きな意味がある、と言えるだろう。

02.心の空

作詞・作曲・編曲:布袋寅泰
Rap詞:櫻井 翔

 今作のリード曲。布袋寅泰が作詞・作曲、プロデュースを手がけた一曲だ。ここにも大きな意味合いがある。2012年から布袋寅泰はロンドンに拠点を移している。海外のロック系レーベル<スパインファーム>と契約し、現地で地道なライブハウスの出演を重ね、ゼロからの音楽活動を行ってきた。10月には世界デビュー作となるアルバム『Strangers』がUK、日本、ヨーロッパで同時リリースされたばかり。つまり現時点で“外から見た日本”というテーマに最も向き合っているミュージシャンだと言える。SMAPや関ジャニ∞と違い、嵐が大物ミュージシャンを作詞や作曲に迎える例は非常に少ないが、今作のコンセプトを踏まえて考えると適任だったと言えるだろう。

 彼はブログで、この曲の制作が東京とロンドンを結んだ櫻井翔・松本潤とのスカイプミーティングから始まったこと、そして彼らから“外から見た日本”“和楽器をフィーチャーしたダンス・ナンバー”“原点回帰”というコンセプトが提案されたことを明かしている。結果、仕上がった楽曲は、ヨナ抜き音階のメロディに和太鼓と津軽三味線の音色が鳴り響き、布袋寅泰のギターソロも存在感を主張する、とてもアクの強いサウンド。それぞれの個性がぶつかり合うような一曲になっている。

03.君への想い

作詞:wonder note, Macoto56
Rap詞:櫻井 翔
作曲:wonder note
編曲:石塚知生

 雅楽師・東儀秀樹が奏でる「篳篥(ひちりき)」と「笙(しょう)」をフィーチャーしたスローバラード。「箏(そう)」で参加している吉永真奈は、和楽器ユニット「Rin'」を経てソロでも活躍する箏曲・地歌三味線の演奏家。ともに純邦楽の演奏とポップスを融合させてきたキャリアの持ち主だ。そして、興味深いのは、16ビートのリズムパターンやスムースなベースラインなど、曲の基盤はあくまでR&Bバラードになっていること。そういったタイプの曲でサックスが果たす役割を和楽器が担っている。まさに「和洋折衷」のサウンドなのだが、そこでの「洋」がブラック・ミュージックである(だからこの曲もラップがフィーチャリングされる)のが大きなポイント。

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