NEWS「チュムチュム」が示した、ジャニーズ独特の表現法とは? ポピュラー音楽史の視点で探る

 ところで、西洋的なポピュラー音楽とインドは、それなりに関わりが深い。例えば、「チュムチュム」を聴いているとシタールの音色が耳に入ってくるが、自身の音楽にシタールを意欲的に取り入れたのは、ビートルズのジョージ・ハリスンである。ジョージの活動もあって、シタール奏者のラヴィ・シャンカールなどは、よく知られている。あるいは、やはりシタールを効果的に取り入れた、デイブ・パイク・セットの「Mathar」なんていうジャズの名曲もある。西洋にとって「インド」は、「日本」と同じように、いやもしかしたら、それ以上に魅惑的な場所として存在し続けている。「チュムチュム」は一方で、そのような西洋のポップス全体の歴史とも無関係ではない。アメリカの音楽を翻訳し続けているジャニーズにあっては、なおさらである。もう少し言うと、2000年代中期には、アジア圏のクラブ・ミュージックが一部ブームになった。インド系で言うならば、パンジャビ・MCやニティン・ソーニーといったアーティストだ。いずれも、ヒップホップやハウス、ドラムンベースなどのクラブ・ミュージックにインドの伝統的な音楽の意匠を施している。「チュムチュム」は、直接的には、これらの音楽を参考にしているのだろう。これはこれで、サウンドの狙いどころとしては面白い。

 このように、いかにも飛び道具的に思える「チュムチュム」にも、ジャニーズ史やポピュラー音楽史の文脈がある。そして、こういうことを考えることで、「チュムチュム」という楽曲の練られかたも浮き彫りになる。ヒンディー語が日本語詞に切り替わるところで、シタールの音色が後景化されてアコースティック・ギターが押し出されるのは、完全に意図的だろう。サビもメロディー・ラインが完全にJポップ的な歌いまわしで、ふたたびシタールやタブラの音が聞こえてくるのは間奏になってからだ。インド音楽のサウンドをJポップの土壌に乗せるために、細やかな工夫がされている。したがって、たとえそれがジャニーズ側の狙いだったとしても、偏見まじりで無批判に「インド」像を受け取らないほうがいい。「チュムチュム」は、他のジャニーズ楽曲同様、良質なJポップに翻訳されているのだ。

■矢野利裕(やの・としひろ)
批評、ライター、DJ、イラスト。共著に、大谷能生・速水健朗・矢野利裕『ジャニ研!』(原書房)、宇佐美毅・千田洋幸『村上春樹と一九九〇年代』(おうふう)などがある。

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