定額制音楽サービスの新潮流ーーApple Music、Spotify、AWA、LINE MUSICは何を変えるか?

新機能を追加し、音楽を生活の中に溶けこませるSpotify

 同様のトレンドは、Spotifyの発表からも感じられる。定額制音楽ストリーミングサービスでは世界最大のSpotifyは先日、強化したレコメンド機能の「Now」や「動画配信」、「ラジオ配信」、オリジナルコンテンツやランニング機能など、多数の新機能を発表して、大きなインパクトを残した。

 例えば「ランニング」機能では、走る速度が変わる度に曲のBPMを自動でマッチさせることが可能になっている。これによって、テンポが合わない曲で調子が崩れる場面を劇的に減らせたりできる。世界中の多くのランナーにとって音楽を聴きながら走ることは習慣化していることだろう。音楽とランニングの融合を技術的に実現した音楽ストリーミングサービスはSpotifyが初めてで、日本でもSpotifyが始まれば注目される機能といっても過言ではない。この領域の今後が楽しみだ。

 また「Now」はこれまで聞いた音楽の嗜好と時間帯を分析して、日常のさまざまなシーンに最適なプレイリストを生成してくれるスマート・プレイリスト機能だ。効果的なプレイリスト生成にSpotifyはアルゴリズムと人によるキュレーションを組み合わせている。朝の通勤時間やリラックスする時間など、テーマ別のプレイリストが個人の音楽の好みに合わせて出てくるようになれば、さまざまな場面で音楽を聴きたい気分が高まる。

 Spotifyはアクティブユーザー数7500万人、有料会員数2000万人をすでに獲得している。数字の上では、Apple Musicや他社を先行している、市場リーダーである。そしてSpotifyも、音楽を日常的に触れる時間と選択肢を増やそうと、音楽ストリーミング以外の部分を強化し始めた。ランニングや動画コンテンツ、スマートなプレイリスト生成を通じて、音楽を生活の中に溶けこませた体験作りに踏みだそうとしている。

国内「定額制音楽サービス」の特徴と課題

 日本で始まった「AWA」や「LINE MUSIC」はどうだろうか? まずAWAの特徴は、音楽と出会う仕組みを、音楽ファン同士が作るプレイリストや、ムード別のプレイリストを通じて実現している点だ。これはApple MusicやSpotifyが追求しているキュレーションと似ているが、AWAではテイストメイカーの参加に加えて、今後は一般的な音楽ファン同士が共感し合えるプレイリストが増えていくのではないか。

 LINE MUSICでは、LINEアプリを通じて友人と音楽を送信し合い、会話の一部として楽しむことができる。またアーティストの公式LINEアカウントを通じた施策も今後は用意される点では、ファン同士そしてアーティストとファンがつながる、プラットフォームとして拡がる可能性を感じる。

 この点から、この2つのサービスもただのオンデマンドな音楽ストリーミングサービスだけに留まらない要素を取り入れていると言える。つまり、今の定額制音楽サービスが目指す方向性は、どれだけ生活の一部として音楽に触れるタッチポイントをサービス内で増やせるかだと思う。それがApple Musicを始め、今まさに始まろうとしている新しい定額制音楽サービスの潮流だ。

 一方で、日本では今でも「定額制音楽サービス」に対する認知が低いことは今後の課題と言える。そのためには積極的な啓蒙活動と、そしてネット検索では辿り着けない選択肢の拡充だと思う。機能を追加する時代は終わった。日本で本格的に定額制音楽サービスが普及させるには、音楽ストリーミングを提供するだけでは何も変わらない。選択肢を多様化させて、よりワイドなアプローチを仕掛ける。まだ日本では始まったばかりの定額制音楽サービスには、音楽を聴くワクワクする体験で生活に変化を与えてほしいと感じる。

■ジェイ・コウガミ
デジタル音楽ブロガー。音楽ブログ「All Digital Music」編集長。ブロガーとして音楽サービスや音楽テクノロジーなど、日本のメディアでは紹介されない音楽の最新トレンドを幅広く分析し紹介する活動を行う。オンライン、雑誌に寄稿するほか、講演やテレビ、ラジオなどで活動。日本初ITx音楽のハッカソン「Music Hack Day Japan」審査員。オレゴン州ポートランド育ち。趣味はアナログレコード集め。http://jaykogami.com

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