嵐の楽曲はどう“面白い”のか? 柴 那典×矢野利裕がその魅力を語り合う

矢野「櫻井くんのヒップホップ魂は日本語ラップシーンの興隆に支えられている」

ーーほかに気になる曲はありますか?

矢野:その『Dream “A” live』の限定版に収録されている、櫻井くんのソロ曲「Hip Pop Boogie」が最高ですね。歌詞が本当に素晴らしくて、マジで泣けます。「大卒のアイドルがタイトルを奪い取る」「温室の雑草がマイク持つRAP SONG」とあるのですが、官僚の父を持ち慶応義塾大学を卒業した櫻井くん自身がヒップホップをどう向き合っているかを表明しているようです。さっきも言ったとおり、彼らのデビューした99年はヒップホップがかなり盛り上がっている時代で、音楽に関心を持っている10代なら当然アンテナに引っかかっていた。当時の櫻井くんもきっとそうでしょう。そうした時代にデビューするとなったら、ヒップホップが好きであればあるほど、中途半端にはやりたなくないはずです。とは言え、「アイドルとしてラップをする」ことは避けられない――そうした葛藤の時期を経て、彼なりの答えとなったのがこの歌詞だと思います。俺はアイドルとして堂々とラップするのだ、と。「温室の雑草」は見事なフレーズです。「HIP HOP」ではなく「HIP POP」。櫻井くんなりのヒップホップの引き受けかたですよね。これは後続に勇気を与えますよ。

柴:なるほどね。

矢野:さらに言えば、櫻井くんのラップの特徴って、ラップの発声と歌の発声の間をとっていることなんです。ラップって、喉を絞ってキャラクターを作るように発声することが多いのですが、櫻井くんの場合、ラップをした直後でも歌に入らなきゃいけないので、喉を絞りきらない。常に半開きの状態にしておくんです。対照的なのは、同じくラップをしている元KAT-TUNの田中聖くんですよね。彼はアンダーグラウンドのラッパーにアイデンティファイしているのか、歌とラップを両立させるような歌い方はあまりしていませんでした。「Make U Wet」での発声の仕方が顕著ですね。アイドルとしてラップをする櫻井くんと、アイドルから逸脱するくらい自我の強い田中くん。両者の考えの違いは、発声の仕方にも表れているんです。もちろん僕としては、どちらもかっこよければオーケーです。

柴:「大卒のアイドルがタイトルを奪い取る」……考えれば考えるほどすごい歌詞ですよね。実はこれ、最初に出てきたものではなくて「COOL & SOUL」にも「アイドル タイトル奪い取る」というリリックがあります。それと「Theme of ARASHI」に共通する「太陽光」という詞もそうだけど、過去から引用するキーワードには、彼の表現したいことが詰まっているんでしょう。

矢野:もちろん、櫻井くんの持っているヒップホップ魂が日本語ラップシーンの隆盛に支えられていることは間違いありません。同時代には、Dragon Ashやスケボーキング、m-floやZEEBRAなどがいました。櫻井くん自身は、Shing02が好きだったとも言っています。ただ重要なのは、そうした中で自分がどの道を選ぶかです。オリジナリティを築き上げるにあたりどういうスタイルを選択するかが問われるんです。それは、メジャー/アングラに限りません。櫻井くんは、ボーカルの取り方も歌詞や曲作りの選択も、全てアンダーグラウンドとオーバーグラウンドのあいだをとってきた。その櫻井くんの個性を象徴している曲が「Hip Pop Boogie」だと思います。歌詞・発声・トラックなどすべてがメッセージを持っているようです。(続きは書籍で)

(構成=北濱信哉)

■書籍情報
『嵐はなぜ史上最強のエンタメ集団になったか』
リアルサウンド編集部・篇
価格:¥ 1,500(+税)
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内容紹介:ごく普通の青年たちがエンタメ界のトップに君臨したのはなぜか? 音楽性、演技・バラエティ、キャラクター、パフォーマンス…… 時代が嵐を求めた理由を、4つの視点から読み解いた最強の嵐本! 嵐の音楽はポップ・ミュージックとしてどんな可能性を持っている? 現代思想で読み解く各メンバーのキャラクターとは? 嵐ドラマは00年代の情景をどう描いてきた? 青井サンマ、柴那典、関修、田幸和歌子、成馬零一、矢野利裕など、気鋭の評論家・ライターが“エンターテイナーとしての嵐”を語り尽くす。総合音楽情報サイト『リアルサウンド』から生まれた、まったく新しい嵐エンタメ読本。

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