『ジークアクス』マチュの“闇バイト”は現代に何を問いかける? 往年のファン&20代で激論

『ジークアクス』を“闇バイト”問題から議論

「マチュの破天荒さについて言うと、たとえば“反抗”のイメージが昔だったら“盗んだバイクで走り出す”的な行動だったけれど、現代においては“犯罪だ”としか思われないわけです。『機動戦士Zガンダム』のカミーユ的な存在を今の社会はもう許してくれないという現実が、『ジークアクス』ではしっかり描かれています。親の金で買ったであろうスマホも上官にミラーリングされているし、行動も筒抜けで、社会から抜け出そうとするプロセス自体が“監視下での抵抗”になってしまっている。第7話でマチュが“暴走”してもシャリア・ブルにあっさり止められてしまっていましたが、今はそういう“反抗”が機能していないのを象徴していると思います」

 情報社会(≒擬似的な相互監視社会)における“カウンターの不可能性”を指摘したうえで、クランバトルの描写の現代性についてこう続ける。

「クランバトルで相手を殺害するのも“ブチ切れて反旗を翻す”とかそういうリアリティではなくて、単に“やるときはやる”だけでそこに文学的な葛藤も(脱)倫理も何も発生していない。それが今の“強さ”なのかもしれません。『忍者と殺し屋のふたりぐらし』も放送中ですが、あのキャラクターたちも仕事で人を簡単に殺すんだけど、でも彼女らなりのゆるい日常がある。『ベイビーわるきゅーれ』(テレ東系)などとも近い感覚だと思います。あれが闇バイトに手を染める若者と地続きな感覚かもしれなくて、普通にバイトに応募する感覚でとんでもない犯罪を実行してしまう感性がある。そういう意味ではクランバトルのくだりはよくできていたと感じます」

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 マチュの行動には“消費社会への反抗”という古典的モチーフがある一方、“闇バイト”というキーワードでみれば諸作品と共通する現代性があるようだ。こうしたマチュのキャラ造形について、ブリティッシュ・コロンビア大学に在学し翻訳を手がけるほか、“未来を複数化するメディア”『anon press』編集部に所属するホワイト健氏はこう述べた。

「SNSではマチュの振る舞いに対して否定的なコメントもありましたが、私はあれこそ鶴巻監督・榎戸脚本の魅力ではないかと思います。思春期特有のコントロールできない感情が、ロボットという媒体を通してアンプリファイされ、現実の規模を超えて物語を意外な方向に転がしていく描き方です。宇野常寛が『ゼロ年代の想像力』で指摘していたように、思春期の“わだかまり”をテーマにして、複雑な家庭環境や傷を持った人たちが集まる、という発想自体は昔からアニメでも人気のあるものだったと思うんですが、『ジークアクス』はマチュとニャアンが傷を共有して寄り添うのではなく“クロスする”関係になっているのが新しいなと。ぶつかって亀裂を生んだままシュウジを含めた3人がそれぞれ全く違う方向に進んでいるところが面白いと思いました。比較的恵まれた環境で育ったマチュが、戦争で故郷を失ったニャアンや性的に搾取され続けるララァなどと接していくなかで、自身の衝動とどのように向き合っていくのかはとても気になります」

 さらに『ガンダム』シリーズ、あるいはアニメをそこまで追っていない層の感覚として意外な意見も飛び出した。

「『ジークアクス』はビジュアル的にも現代らしさを感じます。近年は丸っこくてポップなビジュアルの作品が増えてきたなかで、カクカクしたメカ的なイメージの強い『ガンダム』という最大手までもがそのスタイルを全面的に採用してきたのが意外に感じましたし、嬉しかったです。カナダにゲーマーの友人がいて、彼は普段そこまでアニメを観ないんですが、『ジークアクス』のビジュアルを観て“ポケモンっぽくない?”と親近感を抱いていたようでした。竹さんのキャラクターデザインやカラーとサンライズの現代的な色彩・作画だけを見ても、とくにシリーズを追っていない人にとっても単純に面白そうと思える要素があって、“少なくとも失敗はしなさそう”という安心感がありました」

 ところが実際には過去の『ガンダム』シリーズの引用が頻出する『ジークアクス』の作風についてこう続けた。

「もっとも、蓋を開けてみたら“これまでの総ざらいをします”みたいなノリで固有名詞がバンバン出てくるので、正直戸惑ったところはありますが……。ただ、物語の軸は完全に“宇宙世紀ガンダム”に沿っているわけでもなく、3人の少年少女が、それぞれまったく違う境遇で、溢れ出すリビドーや感情をもとにストーリーを動かしていく。そこにジオン内部の権力闘争など旧作ファン向けの展開も加わるなど、物語に複数の軸があるのでその点に着目すれば固有名詞の多さのわりには“意外と追えるな”と感じて楽しんでいます」

 “空虚さ”へのやりきれなさを抱え、いまだそのやり場を見つけられていないようなマチュ。“フロンティア”としての地球に降り立った彼女はこれからどこへ向かうのか。

参考
※https://bunshun.jp/articles/-/79220

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