『グノーシア』はループものの新たな“始点”となる名作 『シュタゲ』に通じる圧倒的構成

『グノーシア』はループものの新たな名作

 TVアニメ『グノーシア』には「エピローグ」がある。

 第18話で「最終回」のような結末を迎えた本作だが、その翌週に配信された特別番組内で、残り3話のエピローグが存在することがサプライズとして明かされた。連続2クールのTVアニメとしては変則的な形ではあるものの、原作ゲームの展開を考えると実に物語に誠実に寄り添った演出といえる。

 というのも、第18話時点でアニメオリジナルの主人公・ユーリは、いわゆる「ノーマルエンディング」には辿り着いている。星間航行船D.Q.O.内にまぎれこんだ、“人間に化けて人間を襲う未知の敵”・グノーシアや、幾度となく繰り返されるループ、宇宙崩壊——これらの脅威から解放され、ユーリは平穏な日々を手に入れた。ここまでは、原作ゲームでのノーマルエンディングに至るまでの展開と同様だ。

 ただしこのエンディングには、犠牲が伴う。

 ユーリがループを抜け出すには、満たされた銀の鍵(人に寄生してループを引き起こす生命体。より深く人間を知るために宿り主をループさせ、人間に関するあらゆる情報を知識として溜めていく。銀の鍵が知識で満たされると宿り主の体を離れ、新たな宿り主を探して別の次元に移動する。※1)によって開いた「次元の扉」をくぐった先で扉を閉じなければならない。宇宙崩壊を引き起こす“二重存在”の問題も解消すべく、セツは本物のユーリが眠る医療ポッドとともに「次元の扉」を抜け、別の宇宙へと去っていった。それによりセツは人々から忘れ去られ、飛んだ先の別の宇宙で再びループを繰り返すことになる。

 原作ゲームにおける「トゥルーエンディング」に至る展開では、主人公とセツ、二人の物語に少しだけ続きが存在するが、アニメ版の「エピローグ」でもこの展開は描かれるのか。原作ファンにとってはトゥルーエンディングへの、そうでない者にとってはまったく未知のシナリオへの期待が渦巻き、話題を集めた。

 いったんの「エンディング」を迎えた『グノーシア』だが、本編中盤でのククルシカと呼ばれる少女による「虐殺」をめぐる真相など、実はエピローグに突入した現時点でもなお根本的な謎がいくつか宙吊りにされたままである。

「銀の鍵」と「リーディング・シュタイナー」——唯一性の喪失

 とはいえ、上述したようなセツを犠牲にしたユーリの悲劇——タイムリープが突きつけるトロッコ問題、あるいは命の二者択一は、本作のようなループものにドラマを生む重要な要素となる。

 ユーリとセツ二人が生き残る世界では不可避的に宇宙が消滅してしまい、死に戻りの無限ループを永久に繰り返すことになる。というのもアニメ版の主人公として描かれてきたユーリは、実は「本物」のユーリとは別に生み出された「バグ」であり、「二人」が邂逅すると“二重存在”によって宇宙が消滅してしまう。セツが「本物」のユーリとともに別宇宙へと旅立ったのは、ユーリをループから解放し、かつ宇宙崩壊を防ぐ唯一の手段だったのだ。

 こうしたタイムループとトロッコ問題を掛け合わせた展開は、『All You Need is Kill』といった古典、あるいはスタッフやジャンルの共通性から『シュタインズ・ゲート』といった過去作を想起させる(TVアニメ『シュタインズ・ゲート』のシリーズ構成は、『グノーシア』と同じく花田十輝が務めている)。特にパートナーキャラを犠牲にした主人公が別の世界線で生きることの罪悪感/喪失感という点で、「ユーリとセツ」「岡部倫太郎と牧瀬紅莉栖」の関係には共通性を見出さざるをえない。さながらノーマルエンディングを迎えたユーリは、β世界線を生きる岡部倫太郎のようである。

 『グノーシア』作中では、ユーリとセツは「銀の鍵」の宿り主としてそれぞれループを繰り返し、いくつもの世界線を渡り歩いている。

 『シュタインズ・ゲート』においても、主人公・岡部が複数世界線の記憶を同時に保持できる能力が「リーディング・シュタイナー」と名付けられていた。

 こうした「複数世界の観測者」たちは、逆説的に「世界の唯一性」に直面することになる。

 α世界線の岡部が、半永久的に繰り返される椎名まゆりの死を目撃させられつづけていたことを思い出そう。ループするまゆりの死に絶望し、疲弊しきった岡部は、いつしかまゆりの死の条件を「検証」するようになっていった。どうすればまゆりの死を回避できるのかという考えに固執するあまり、意図的にループを繰り返し、まゆりの死の状況を確認し、対策を検討=まゆりの死を自らの手で反復させるという本末転倒な事態に陥っていた。

 このことを紅莉栖は倫理的に諌め、岡部とともに理想の世界線を目指していく。ループをめぐる複数世界の観測者(孤独の観測者)は、世界の唯一性を喪失することで逆説的に世界のかけがえのなさを自覚していくようになるのだ。

 似たようなことは『グノーシア』でも描かれる。D.Q.O.船内では疑わしい者を毎晩一人コールドスリープさせるための会議・投票がおこなわれるが、第8話では会議が一時保留されることになる。沙明が自身に向けられた疑いを「土下座」によってはぐらかし、会議の結果をなかったことにしてしまったのだ。

 コメディタッチに描かれるくだりだが、セツはこの事態を重く受け止める。セツに気を遣ったのか、同じくループを繰り返しているユーリは「また、戻るだけ……」「少なくとも、僕とセツはそうなんじゃないの?」と告げる。しかしセツはこう返す。

でも、その他の人にとっては、ここは唯一無二の世界線なんだ。ここしかないんだ。「次がある」なんて考えは失礼だよ

 すでに何度も複数の世界線を繰り返しているユーリは、セツの言葉で世界の唯一性と向き合い直すことになる。

 ただしユーリは翌日の会議で、「しげみちが『今回は』早々にコールドスリープになってしまったんだ」と思わずこぼしてしまう。ループに「慣れてしまう」ことの副作用は思ったよりも根深い(ユーリが「今回は〜」と告げる部分では、彼の口元がクローズアップされるカットが差し込まれる)。

 加えて興味深いのは、第8話というと視聴者も「ループに慣れてきた」時期だということだ。リアルタイムで視聴を続けてきた視聴者は、約2カ月にわたりほぼ毎週1回以上はユーリとともに「世界線の移動」を経験して(しまって)いる。また、会議で登場する「人狼ゲーム」を模した役職もこの時点でほぼ出揃っており、Aパートではそれらのダイジェスト的な解説がユーリ自身のモノローグによっておこなわれている(「消滅」した人物の名も淡々と告げられていく)。

 これは表向きには視聴者に向けた用語解説でありながらも、同時に、ユーリ(と視聴者)にとっては、ある世界の出来事がすでに「テンプレ化」してしまっていることの演出としても機能するだろう。

 第8話時点であえてこうした描写が挿入されたことは、第9話以降の展開を受け取るうえで大きな意味を持つ。

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