『教皇選挙』と現実のコンクラーベを比較検証 新教皇・レオ14世は“ベリーニ枢機卿”に近い?

『教皇選挙』と現実のコンクラーベを比較検証

 最後に、コンクラーベと『教皇選挙』を踏まえたうえで、今回の選挙の争点にもなったカトリック内部における分断を小野寺氏はこのように分析した。

「そもそも同じ神を信じているのに、なぜ保守派とリベラル派という対立軸が生じるのかという疑問もあるかと思います。争点の一つとなっているのは、性的マイノリティに関してです。前教皇は『同性愛者も神の子』という発言にもあったように、彼らも祝福を受けるべきだと主張していました。カトリックは聖書に則っていますが、新約聖書にはマグダラのマリアをはじめとして、社会から疎外されている人々や貧しい人を慈しむべきだという博愛の精神が説かれています。その考えに基づくのであれば、性的マイノリティを認めるべきだというのが、前教皇をはじめとしたリベラル派の意見でした。一方で、旧約聖書の『レビ記』には同性愛を禁じる記述があり、新約聖書では同性愛に関してはっきりと明言されていない以上、そちらの記述を尊重すべきだというのが、一部の保守派のロジックだと考えられます。さらに保守派の主張を掘り下げると、神学者トマス・アクィナスの言葉を根拠としている部分もあります。アクィナスは『神が人間に与えた肉体は自然の摂理に適うものであり、その摂理から逸脱する行為は神の意志に反している』という主旨の考えを述べており、それが性的指向の多様性に基づく営みを否定する根拠になっていました。『教皇選挙』も現実世界と同様に保守派とリベラル派の対立が描かれていましたが、最終的に教皇となった枢機卿による『この体も神がお創りになったもの』という台詞は、この「神が創った自然」という、保守派が強調する概念を逆に利用した、強烈なカウンターなのです」

 奇しくも現実世界と重なり、実際のコンクラーベに参加する枢機卿たちの“参考書”にもなった『教皇選挙』。現実世界のコンクラーベを見届けた今だからこそ劇場で観直すと、また新たな発見があるかもしれない。

参照
※ https://hollywoodreporter.jp/movies/109407/

■公開情報
『教皇選挙』
全国公開中
出演:レイフ・ファインズ、スタンリー・トゥッチ、ジョン・リスゴー、イザベラ・ロッセリーニ
監督:エドワード・ベルガー
脚本:ピーター・ストローハン
原作:ロバート・ハリス『CONCLAVE』
配給:キノフィルムズ
提供:木下グループ 
2024年/アメリカ・イギリス/英語・ラテン語・イタリア語/カラー/スコープサイズ/120分/原題:Conclave/字幕翻訳:渡邉貴子/G
©2024 Conclave Distribution, LLC.
公式サイト:https://cclv-movie.jp
公式X(旧Twitter):https://x.com/CCLV_movie

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