日中アニメ産業共通の課題とは? bilibiliアニメ事業部・亢越が語るIPビジネスの未来

bilibiliアニメ事業部が語るIPビジネスの未来

亢越:bilibiliは日本のアニメ好きが集まるプラットフォームで、2013年から正規ライセンスで配信を始めて2025年で13年目になります。そのユーザー数は今も伸びています。日本アニメの魅力、日本文化に魅力を感じている若い人は中国にも多いです。弊社では、2016年から国産アニメを制作し始めました。当時はまだまだ市場が未成熟で、制作力のある会社も少なかったですが、この8年でスピード感をもった成長が実現できています。数量的にも、質の面でも非常に大きく向上しています。日本では、毎年300タイトルくらいのアニメが制作されていると思いますが、中国は大体150タイトルくらいです。国産アニメのファンの規模感は我々の感覚では3億人以上を超えて、日本アニメのファン数を抜いていると思います。しかし、カジュアルなファンも増加傾向で、日本アニメ好きも同時にまだまだ増えているという感覚です。

――中国でアニメの市場自体が拡大し、それに伴い日本のアニメ好きも増えているということでしょうか?

亢越:そう思います。アニメはニッチな文化だったものが、弊社のようなプラットフォームの成長とともに、メジャーなものになってきました。

日本アニメへの出資基準は?

亢越(写真提供=bilibili)

――bilibiliは、日本アニメに直接製作出資することもありますが、どのような基準で作品を選んでいるのですか?

亢越:以前は出資させてもらって、日本のビジネスモデルやスキームを勉強させていただくという動機でしたが、今は中国マーケットで通用しそうなストーリー性やビジュアル、ビジネス潜在性などを考えて出資するようになっています。bilibili動画のエコシステムに上手くはまって展開できる可能性のある作品を考えて出資も行うようになっています。

――『阿波連さんははかれない』は御社が1社単独で出資していますね。

亢越:そうですね。日常系連載ものが中国では人気が高いです。これは集英社の作品だというのもあり、作り続けていきたいという気持ちで出資しています。これをきっかけにほかの集英社作品にも出資できればという思いもあります。

――中国で日常系アニメが人気の理由は何なのでしょうか?

亢越:昔から人気があるんですが、今アニメファンの多くが15歳から35歳くらいの若い層なので、その世代にとって共感できるものだということだと思います。もちろん、『少年ジャンプ』のアクション作品も人気があります。

――音楽アニメも人気ですよね。例えば『BanG Dream!(バンドリ!)』シリーズは中国人気に牽引されているシリーズと言えると思います。

亢越:『バンドリ!』は、何年も前から360度のメディアミックス展開をしてきたシリーズです。その蓄積は大きいですよね。中国の音楽産業はそれほど強くないので、音楽系のジャンルは中国内で日本が強いんです。音楽とアニメ、日本の強みを2つ生かしたタイトルだから『バンドリ!』は人気があるんだと思います。音楽とアニメを掛け合わせたコンテンツは中国では少ないですし、オフラインイベントに積極的なのも中国ファンにとっては嬉しい要素だったと思います。今の時代、アニメでオンラインとオフライン、両方で攻めていけるのは強いと思いますね。

日本と共同で新たなIP創出『TO BE HERO X』

『TO BE HERO X』©bilibili/BeDream, Aniplex

――近年、bilibiliでは国産アニメを国外に輸出するようになってきましたね。その手ごたえはいかがでしょうか?

亢越:8年前に制作を始めたときは、まだ中国内で質の高いアニメを作れる会社はそれほど多くなかったんですが、近年の努力で数量的にも安定してきています。『天官賜福』や『時光代理人 -LINK CLICK-』といった作品は、海外からも注目を浴びるようになってきました。特に日本からの問い合わせが多いですね。これは、日本のパートナーであるソニーグループのおかげで、きちんと展開できているからだと思います。

 ――日本での展開と言えば、2023年にフジテレビと提携を発表し、B8stationという放送枠ができましたね。こちらの展開の手ごたえはいかがでしょうか。

亢越:弊社とフジテレビは長期間のライセンス契約を結び、共同製作作品5つに出資させてもらいました。そのときは製作委員会としての参加でしたが、一緒に何ができるのか、お互いにチャレンジすべきことや解決すべき課題があると、お互いに共通の認識が生まれたんです。そして、日中互いのマーケットに対してまだやれることがあるのではないかということで、一緒に放送枠を作り共同製作を進めていこうという結論に至りました。最初の2年間は我々が作った国産アニメの吹替え版をその枠で放送しましたが、これからは共同製作の作品が増えていくと思います。そして、互いの力でIPを拡大させていきたいと考えています。

――この4月から放送されている『TO BE HERO X』は共同製作作品ですね。オリジナルIPを日本と中国の共同製作で作っていくという試みが始まったわけですね。

亢越:そうですね。この作品は新しいチャレンジです。日本のアニメ業界は現在、原作ものが多いですよね。しかし、中国はまだオリジナル作品が多いんです。『TO BE HERO X』は、監督や脚本は中国のチームで、音楽やプロモーションにはアニプレックスのノウハウを提供してもらって実現しています。中国でもファンの期待はすごく大きいです。『TO BE HERO』シリーズがもともと人気シリーズだというのもありますし、その人気シリーズがアニプレックスと組んで大きな体制で作られる作品になったので、グローバル展開を目指すものになっています。ビジュアル的にも2Dと3Dを融合させた新しいものを目指しています。

――bilibiliの海外展開について、日本以外の国ではどんな展開をしているのですか?

写真=林直幸

亢越:bilibiliは東南アジアでも運営されています。東南アジアでも日本アニメを配信していて、インドネシアやタイでは日本アニメの配信プラットフォームとして一番シェアが大きいと思います。それ以外の地域では、自社製作の作品をライセンスアウトして、様々なプラットフォームに展開しています。インドネシアは若い世代の人口が非常に多くて、その世代にアニメは人気があるんです。これからアニメの人気がもっと高まる地域だと考えています。

 ――現在の中国と日本のアニメ市場で、課題だと感じていることはありますか?

亢越:やはり、IPが不足しています。それとスタジオのスケジュールがなかなか抑えられないというのは、日中で同じ問題を抱えていると思います。中国もコンテンツ数が増えているので、日本と同じ問題に直面しているんです。ショートアニメなども増えているし、ゲームも非常に強い分野なので、可処分所得としてアニメが競争に勝ち残れるかといった課題も日本と同様です。アニメというジャンル自体がほかのエンタメとの競争に勝てるかどうか、そこは一番大きな課題ですね。

――それは日中だけでなく、世界共通の課題ですね。

亢越:そうですね。アニメというジャンルはニーズとしてあり続けると思います。ファンも専門性が高くなっていくでしょうし、そのファンが求める要求も高くなっていくので、我々としてはどうやって、より良いストーリー、より良いビジュアルを届けられるのか、常にチャレンジだと思っています。アニメという表現力を活用して、どうコンテンツを届けていけるのか、常に問われていると思っています。

――今後、御社で挑戦したいことはありますか?

亢越:アニメに関しては、日本の製作委員会への出資に国産アニメの製作、海外パートナーとの共同製作など、今実現できていることは変わらずに続けていきたいです。さらに効率性や新しい表現を求めるために、例えばAIのような新技術がどう使えるのか、ということにも注目しています。

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