『淪落の人』で久々の映画出演 アンソニー・ウォンが語る、香港映画界の“死”と新世代への“希望”

『淪落の人』で久々の映画出演 アンソニー・ウォンが語る、香港映画界の“死”と新世代への“希望”

 映画『淪落の人』が2月1日より公開中だ。半身不随となり人生に絶望した中年男性リョン・チョンウィンと、家族のために夢を諦め出稼ぎ家政婦として働く若いフィリピン人女性エヴリンの関係を追った本作では、背景も文化も異なる見知らぬ2人が出会い、やがてお互いの人生で最も大切な存在になっていく模様が描かれる。

 半身不随の主人公リョン・チョンウィンを演じたのは、『八仙飯店之人肉饅頭』や『エグザイル/絆』など、かつて香港映画界で大活躍したアンソニー・ウォン。本作にはノーギャラで出演したというが、その背景には複雑な事情があった。来日を果たした彼に、本作出演の経緯や現在の香港映画界について、話を聞いた。

「古い世代の香港映画界からは引退したつもりでいた」

ーーメガホンを取ったオリヴァー・チャン監督は本作が初長編作品という新人監督です。出演の決め手はなんだったのでしょうか?

アンソニー・ウォン(以下、ウォン):理由はいくつかあるのですが、まず一つは彼女が非常に誠意のある監督だったこと。しかも、作品に対する熱い情熱を持っていました。それと、いまの香港映画にはほとんどないような、深いテーマ性を持っていたことも大きな理由の一つです。映画に登場するエヴリンのように、香港にはフィリピン人やインド人のメイドさんがたくさんいるのですが、彼女のような人たちが映画に登場したことは、私が知る限りこれまで一度もありませんでした。彼女たちは香港に長く住んでいて、香港に貢献しているにも関わらず、香港社会は彼女たち自身や彼女たちのような存在と、ずっと正面から向き合おうとしてこなかった。恐らく、そういうことを描いた初めての映画だったので、私自身非常に意義を感じました。私は昔から香港における外国人労働者の暮らしや悩みを、香港の人々にちゃんと知ってほしいという思いを抱いていたので、このような作品のオファーが来て、とても嬉しかったです。しかも、私自身、作品に出る機会がほとんどなくなっていたので、是非チャレンジしてみたいと思いました。

ーー「作品に出る機会がほとんどなくなっていた」というのは、過去の政治的な発言によるものですね。

ウォン:そのとおりです。きっかけは5年前の雨傘運動でした。当時、私はネットで中国大陸のユーザーたちと議論する中で、中国政府への批判的な発言を行いました。それによって、私はいろんなレッテルを貼られるようになったのです。「アンソニー・ウォン=中国反対勢力」というようなバッシングもたくさん受けました。香港の映画界は、中国大陸のマーケットなしでは成り立たないので、どんな監督でも、私を起用するためには非常に大きな勇気が必要になってしまいました。そのせいで、最初の3年間はまったく仕事がなくなりました。昔だったら街中を歩いていても、ファンの方から「一緒に写真を撮ってください」と言われることもありましたが、そういうこともほとんどなくなりました。なので、私自身は、古い世代の香港映画界からは引退したつもりでいたんです。距離を置こうと、隠遁生活を送っていました。

ーー私はあなたが出演しているジョニー・トー監督やハーマン・ヤウ監督の作品が大好きなのですが、彼らとの仕事ももうできないということですか?

ウォン:もう彼らの作品に出ることはないでしょうね。少なくとも、中国のナショナリズムが変わらない限りは戻ることはできないと思います。私が過去の発言に対して謝罪をすれば可能性があるかもしれませんが、そんなつもりはありませんから。

ーーそんな厳しい現実があるんですね……。ただ、今回の作品には製作としてフルーツ・チャンも参加していますよね。

ウォン:そうなんです。最初、監督のオリヴァー・チャンが直接私に会いにきて、この作品の話をしてくれたのですが、その時に彼女から「フルーツ・チャンに紹介してもらいました」と言われたんです。私と彼はもともと知り合いで、事前に「こういう監督がいて、もしかしたら相談に行くかもしれない」というような電話だけもらっていたんですよ。

ーーフルーツ・チャンとの繋がりが始まりだったわけですね。

ウォン:でも、彼とは一度電話しただけで、その後この映画では会ってもいないんです。ただ、誰がプロデューサーかというのは重要なので、そういう意味ではすごく信用できましたね。あと、彼の作品はだいたいどこかの映画祭のコンペに出せるので、何かしらの賞を獲れるのではないかという希望もありました。

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