カンヌ&アカデミー賞でも快進撃 映画会社「NEON」とNYに向けられる熱い眼差し

いま最もアツい映画会社「NEON」を徹底解説

作品の傾向と魅力

『ロボット・ドリームズ』©2023 Arcadia Motion Pictures S.L., Lokiz Films A.I.E., Noodles Production SARL, Les Films du Worso SARL

 さて、そんな「NEON」は先に挙げた映画以外にも、たくさんの良作を配給してきた。筆者の偏愛も含まれてしまうかもしれないが、例えば2019年にカンヌ国際映画祭でクィアパルム賞を女性監督が史上初めて受賞した『燃ゆる女の肖像』や、2021年のパルムドール候補に挙がったヨアキム・トリアー監督の『わたしは最悪。』、2024年に日本でも話題になりロングラン上映された『ロボット・ドリームズ』、そしてモハマド・ラスロフが監督・脚本・共同製作を務めた『聖なるイチジクの種』などの作品は高く評価されている。

『REVENGE リベンジ』©︎2017 M.E.S. PRODUCTIONS - MONKEY PACK FILMS - CHARADES - LOGICAL PICTURES – NEXUS FACTORY - UMEDIA

 もちろん、派手な受賞歴がない作品でも、粒揃いのラインナップである。例えばアカデミー賞ノミネートで話題になった『サブスタンス』のコラリー・ファルジャによる、血みどろな初長編監督映画『REVENGE リベンジ』、ハーモニー・コリン監督が描く“ハイな人生讃歌”『ビーチバム まじめに不真面目』、人質を監視する任務を与えられた10代の兵士を追うアレハンドロ・ランデス監督の『MONOS 猿と呼ばれし者たち』、アンディ・サムバーグとクリスティン・ミリオティの演技が笑いを誘うタイムループラブコメ『パーム・スプリングス』、ケイト・ウィンスレットとシアーシャ・ローナン共演の『アンモナイトの目覚め』なども素晴らしい。

『FLEE フリー』©︎Final Cut for Real ApS, Sun Creature Studio, Vivement Lundi!, Mostfilm, Mer Film ARTE France, Copenhagen Film Fund, Ryot Films, Vice Studios, VPRO 2021 All rights reserved

 また、ドキュメンタリーにも力を入れていることを忘れてはいけない。孤独な養蜂家を映す『ハニーランド 永遠の谷』や『ビリー・アイリッシュ:世界は少しぼやけている』、豚と牛と鶏の日常を追った『GUNDA/グンダ』、アフガニスタンからデンマークに逃げた男の物語をアニメーションで描く『FLEE フリー』、火山学者の人生とキャリアに迫る『ファイアー・オブ・ラブ 火山に人生を捧げた夫婦』、デヴィッド・ボウイを題材にした『デヴィッド・ボウイ ムーンエイジ・デイドリーム』など、アカデミー賞ノミネート作品から話題作まで豊富である。

『ロングレッグス』©MMXXIII C2 Motion Picture Group, LLC. All Rights Reserved.

 最近はホラー映画界においても存在感が増してきている「NEON」。『グッドナイト・マミー』でお馴染みのコンビ監督による『ロッジ -白い惨劇-』、エイミー・サイメッツ監督の『シー・ダイズ・トゥモロー』、風刺的なホラーコメディの『バッド・ヘアー』、ニコラス・ケイジ主演の『PIG/ピッグ』、ブランドン・クローネンバーグ監督による悪夢的な映画『インフィニティ・プール』、インド系アメリカ人の身に起きる超自然ホラーを描いた『イット・リヴズ・インサイド “それ”が巣食う場所』、そして日本でも3月14日から劇場公開中の『ロングレッグス』が面白い。特に『ロングレッグス』は独立系ホラー映画として史上最高のオープニング興収を記録した。

『PERFECT DAYS』©︎2023 MASTER MIND Ltd.

 ここまでNEONが配給・製作した作品を挙げげてきたが、やはり作品の傾向と魅力はパーソナルな物語、斬新な視点、そしてオープンマインドさではないだろうか。そして極めて外国語作品(非英語作品)が多いことも特徴的に感じる。何を隠そう、日本映画としてアカデミー賞国際長編映画賞にノミネートされた『PERFECT DAYS』の海外配給を担当したのも「NEON」である。これについて、CEOのクインはチューリッヒ映画祭の第4回チューリッヒサミットに出席した際に「45歳以下で、暴力や外国語、ノンフィクションに嫌悪感を持たない」観客にアピールする作品をリリースすることを「NEON」の方針として語っている。

NYに“映画の未来”が集まった

 冒頭で述べた「ブラムハウス・プロダクションズ」や「ブリーカー・ストリート・メディアLLC」などのパートナーシップが印象的な「NEON」。特に密な業務提携をしている「ブリーカー・ストリート・メディアLLC」は大ヒット系作品のエンターテインメント性と芸術的なインディーズの魅力を組み合わせた「スマートハウス」映画を配給することを目標に設立された会社で、「NEON」の指針にも重なる部分が感じられる。

 この2014年に設立された「ブリーカー・ストリート・メディアLLC」も「NEON」も、どちらもニューヨークに位置している。同じ街で、独立系映画を手がける会社同士が手をとって新しい事業を立ち上げているのは非常に良い動きのように思う。それと同時に、あの「A24」もニューヨークに拠点を置いていることを忘れてはいけない。山火事が後押しをすると言われているハリウッドからのタレントやスタッフの流出、そしてハリウッドでの制作減少が米映画業界における課題として挙げられているが、これからは本当に「ハリウッドによるハリウッド映画」ではなく「ニューヨークによるインディペンデント映画」の時代が来るかもしれない。その一線で、間違いなく「NEON」は大きな存在感を発揮していくことになるだろう。

関連記事

リアルサウンド厳選記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「コラム」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる