香取慎吾×ヘイテツの見事過ぎる“勝負” 『日本一の最低男』が提示する社会の選択肢の少なさ

『日本一の最低男』香取慎吾×ヘイテツの名演

 大江戸商店街周辺の再開発計画の見直しを、長谷川区長(堺正章)や黒岩議員(橋本じゅん)に直談判した一平(香取慎吾)は、区議会選挙ではなく長谷川が再選を目論む区長選挙に出馬することを宣言。長谷川と黒岩、そして真壁(安田顕)と真っ向から対立する姿勢を示すことになる。3月13日に放送された『日本一の最低男 ※私の家族はニセモノだった』(フジテレビ系)は最終話前の第10話。

 前回、看板の落下によって怪我をした正助(志尊淳)が入院し、ひまり(増田梨沙)と朝陽(千葉惣二朗)は一平が選挙に没頭できるように都(冨永愛)のもとに一時的に預けられる。彼ら家族の出番がかなり少ないという点で、ホームドラマ的要素を一時的に封印しているようにも見えるが、徹底的に選挙をめぐる一悶着を描くなかにも、常に一平のなかには“家族”の存在があり続ける。

 正助の見舞いに行き、朝陽の保育園のことを話す一平。「今日も一日張り切っていこう」と、いつもの決まり文句と共に眠りつづける正助の左手に拳を当てる。正助の左手の薬指には結婚指輪が付けられており、一平のその行動には、正助が早く目を覚ますよう亡き妹・陽菜(向里祐香)に祈っているようにも見える。その直後のシーンでは、家を一時的に離れることになるのを寂しがる朝陽に、ひまりが「大丈夫」と言うのだが、それを聞いて一平の頭には陽菜との最後の電話の記憶が呼び起こされる。

 そして家にひとりきりになってから、「寂しくなったらこうしろ」と朝陽に教えたように、指先に家族を思い浮かべて握りしめる一平。“選挙編”に突入しようとも、このドラマは紛れもなくホームドラマなのだ。

 とにもかくにも今回のハイライトはやはり、テレビ局時代の後輩だった野上(ヘイテツ)との一連である。第1話の頃から、一平はパワハラ問題でテレビ局を追われたという話が出てきていたが、たまに回想で取り扱われる程度で深掘りはされてこなかった。いざ区長選に出ることを決め、過去が掘り起こされることを懸念する一平。よりによって一平がパワハラで追い込んだとされる野上は暴露系の動画配信者として活動していることが判明。その野上が暴露するよりも先に、真壁たち長谷川陣営がパワハラの噂をリークし、案の定尾ヒレが付けられて炎上してしまう。

 その炎上直前に、選挙運動を手伝ってくれていた仲間たちを解散させたのは、彼らを巻き込みたくないという一平の優しさであろう。炎上した内容について取材に来た人々に食ってかかりさらなる大炎上を促し、あらかじめ連絡しておいた野上に彼のチャンネルの生配信というかたちで話し合う場を世間に公開する。ここまでは確実に一平の作戦であったということは見て取れる。そこから先の、エピソードの後半をがっつりと使って描かれる一平と野上の対話こそ、一平の選挙に向けた勝負の場となるわけだ。

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