ディズニー好調の背景とは? ゼネラルマネージャーが語る2025年の展望と洋画興行の未来

全世界で盛り上がりを共有することも重要
――コロナ禍以降、劇場公開作品の配信リリースが早まったイメージがあります。新作映画も「すぐに配信されるんじゃないかな?」と思われやすい中、映画館に足を運んでいただくためにどのような戦略を取られていますか?
佐藤:劇場公開から配信までの間隔でいえば、実は(映画業界で)ディズニーが一番長いんですよ。コロナ禍では短い時期もありましたが、いまや最長になりました。興行会社の方々にもそのことはお伝えして、「ディズニーはスタジオビジネスに注力しています」というメッセージを発信しています。とはいえ、昔に比べるとディズニープラスを含め、映画とのタッチポイントは格段に多様化していることは事実。その中ではオープニングの興行成績を最大化することがやはり重要で、「すぐに観たい、公開初日や最初の週末に観たい」という気運をつくることを大切にしています。
――以前に比べると日米の劇場公開日がずいぶん近づき、日米同時公開の作品も増えてきました。それはオープニング興行収入の最大化を世界レベルで考えているからでしょうか。
佐藤:それも理由のひとつであることは確かですが、アメリカの本社も、日本はローカライズが非常に大切な市場であることを理解してくれています。興行収入の状況は世界的に変化してきましたが、本社が日本を重要なマーケットとして捉えていることは変わりません。公開日を決める上では競合環境を確かめ、季節や時期を踏まえて最適な日程を本社に提案しているので、日米同時公開はそこまで多くないんですよ。『モアナと伝説の海2』や『ウィッシュ』のように歌をアピールしたい映画なら、公開までに楽曲にふれていただく期間を長くとれる効果は大きいと思いますし、、サーチライト・ピクチャーズなどの映画賞を期待できる作品ならアカデミー賞の時期に公開するのが日本では鉄則。あらゆる要素を総合的に勘案し、作品ごとに公開日を検討しています。

――日本公開を本国の3カ月くらい後に設定し、国内のプロモーションに時間をかけたほうが興行的には有利だという説もありますが、それは事実でしょうか?
佐藤:必ずしもそうとは言えないですね。1990~2000年代はそうだったかもしれませんが、SNSがこれだけ発達した今、「日本のお客さんはSNSを見ないでください」とは言えない。特にマーベル映画の場合、全世界のお客さんと興奮を共有したいというファンの皆さんの思いも強いので、そこを無視して「日本は数カ月後の公開です」というわけにもいきません。全世界で盛り上がりを共有することも重要です。
――SNSでは「ポリティカル・コレクトネスのせいでディズニー映画はつまらなくなった、だからヒットしなくなった」という意見もしばしば見られます。昨年、ボブ・アイガーCEOが「ディズニーの仕事は第一に素晴らしい物語を伝えること、エンターテインメントを提供すること」だとして、「社会的メッセージを推進することが仕事ではない」(※)と発言したことも大きな話題を呼びました。
佐藤:彼の言葉は、「ディズニーはストーリーテリング・カンパニーであり、何よりもストーリーこそが大切なんだ」というメッセージだと思います。先ほどお話ししたように、ディズニー作品は普遍的なテーマやメッセージを伝える物語が多いので、その重要性を説いているのではないかなと。そのような声があることは認識していますが、興行成績との関係はまったくないと考えています。
ブランドを大切にすることは、映画の価値を守ることにもなる
――日本の洋画興行成績を受け、このまま洋画文化が衰退していくのではないかと危惧する声もあります。今後、洋画興行は再び復調していくと思われますか?
佐藤:ディズニーについて言えば、昨年の興行成績を見てもわかるように、変わらず幅広いお客さんに映画を観ていただけています。確かに2019年と比べられることは多いですが、1年を通してディズニー映画を観てくださる方はたくさんいらっしゃいますし、今後も素晴らしい作品が揃っています。『アナと雪の女王』や『トイ・ストーリー』、『アベンジャーズ』、『アバター』などの新作もあり、作品の供給は細ることなく続いていく。だからこそ私たちは、ディズニーのブランドを愛してくださる人たちを大切に守っていきたいと考えています。「衰退」や「復調」という言葉は適切ではないと思いますね。

――ブランドを守っていくことが、洋画文化の未来にもつながるということですね。
佐藤:ディズニーはストーリーテリング・カンパニーであり、同時にいくつものブランドがあります。ディズニー、ピクサー、マーベル、スター・ウォーズというブランドの魅力を伝えることも大きな役目で、イオンシネマさんとのパートナーシップのもと、オリジナルのシーニック(巨大壁画)を公開する取り組みもそのひとつ。映画を観に来てくれた子どもが、劇場にあった大きなアートを覚えてくれて、大人になったら自分の子どもを連れてきてくれる……そうやって世代を超えたつながりが生まれてくるものですよね。ブランドを大切にすることは、映画の価値を守ることにもなるはず。すべてはつながっていると思っていただけると嬉しいです。
参照
※ https://www.hollywoodreporter.com/business/business-news/disney-political-agenda-bob-iger-1235865809/






















