『べらぼう』はなぜ新しい大河なのか “完全な善人も悪人”も存在させない森下佳子の信念

『べらぼう』はなぜ新しい大河なのか

 本作の「作」としてクレジットされている脚本家・森下佳子は、『大河ドラマ・ガイド べらぼう~蔦屋栄華乃夢噺~ 前編』(NHK出版)に掲載されているインタビューの中で、あらかじめこんなことを語っている。

「蔦重が育ち愛着も持っていただろう吉原は、今の価値観からするとさまざまな意見が出る場所です。でも、その『非』について語り尽くされた今も、似た状況を全くなくせていないのが私たちの現実。ならば、是非論に軸足を置きすぎず、過剰な否定も肯定もしない、そこに生きた人を見守るのがこのドラマの取れるスタンスかな、と。見守ることで見えてくる人や社会のどうしようもなさ。その中で、皆何を考えどう生きたか。そんな事も少し伝わればいいと思っています」
『大河ドラマ・ガイド べらぼう~蔦屋栄華乃夢噺~ 前編』(NHK出版)

 なるほど。短絡的な判断で、その是非を問うことに執心するのではなく、その「構造」の中で、どのように人々が「主体」として生きてきたのかを知ろうとすること。そう、ここにもうひとつ「補助線」を引くのであれば、それは「主体と構造」の問題になるのかもしれない。現在の価値観と照らし合わせて、その「構造」自体に問題があると指摘するのは容易い。しかし、それは果たして「構造」だけの問題なのだろうか。その「構造」によって虐げられた人々もいれば、それをうまく利用して自己実現を果たした「主体」もいるだろう。「主体」と「構造」は、かくも複雑に絡み合っていて……それを見極めることが、実は最も肝要なのではないか。彼/彼女の思惑や行動が、「悪」であるように見えるのは、その「構造」自体の問題なのか、あるいはその「主体」自身の意思なのか。そのあたりを慎重に見極めながら、引き続き『べらぼう』の世界を楽しみたいと思っている。

■放送情報
大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』
総合:毎週日曜20:00〜放送/翌週土曜13:05〜再放送
BS:毎週日曜18:00〜放送
BSP4K:毎週日曜12:15〜放送/毎週日曜18:00〜再放送
出演:横浜流星、小芝風花、渡辺謙、染谷将太、宮沢氷魚、片岡愛之助
語り:綾瀬はるか
脚本:森下佳子
音楽:ジョン・グラム
制作統括:藤並英樹
プロデューサー:石村将太、松田恭典
演出:大原拓、深川貴志
写真提供=NHK

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