『べらぼう』風間俊介の“悪い笑顔”にゾクゾク 全仕事人が参考にするべき蔦重の“気概”

「これまで48文で売られていた『吉原細見』がありました。この販売数を2倍にしなければなりません。あなたならどうしますか?」
なんて、現代の入社試験としても出てきそうなこの難題。後に「メディア王」と呼ばれる蔦重(横浜流星)が出した答えとは!?

NHK大河ドラマ『べらぼう〜蔦重栄華乃夢噺〜』第7回「好機到来『籬まがきの花』」は、捕縛された鱗形屋(片岡愛之助)の後釜を狙い、地本問屋仲間に参入しようとする蔦重の奮闘が描かれた。しかし、第4話で西村屋(西村まさ彦)とともに『雛形若菜初模様』を出版しようとした蔦重の前に立ちはだかった地本問屋仲間のこと。今回も空いた鱗形屋の席をすぐさま蔦重に……なんて甘い話にはならない。
固く閉ざされた扉をこじ開けるために、蔦重は「俺に任せてくれりゃ、今までの倍売れる細見を作ってみせます」と言い放つ。この言葉にそれまで聞く耳を持たない態度だったリーダーの鶴屋喜右衛門(風間俊介)も思わず「倍!?」と反応。「本当に倍売れたら、仲間に加わっていただくということでどうでしょうか?」と蔦重に約束するのだった。

しかし、勝ち目のない勝負事など鶴屋が仕掛けるわけもなく、蔦重の細見に対抗する形で西村屋にも細見を作るようにと持ちかける。蔦重よりもずっと版元としてのキャリアがある西村屋。ポッと出の蔦重が作るものよりも、西村屋版の細見が売れると見込んでのことだった。そんな邪魔が入りながらも、蔦重はどんな策で立ち向かうのだろうか。
倍売るためにまず従来の半値を目指す

まず蔦重が最初に考えたのは、細見の価格を半値にするというもの。2倍売るためには倍の冊数を店先に置いてもらわなければならない。とはいえ、いきなり各販売店の仕入れ数が2倍になるというのは考えにくい。ならば、1冊あたりを半値にすれば、これまでの仕入れ予算のまま、倍の数を仕入れてもらえるという魂胆だった。
それは一見すると単純な作戦だが、それゆえに多くの人が見落としがちな視点。しかし、ただ安くなったからといって人は商品を手に取らない。むしろ「安かろう悪かろう」と身構えるはずだ。もちろん、蔦重のことだ。そんな期待値を超えるための「工夫」を探す。
より多くの情報を、より薄く

蔦重のアイデアの源は、足で稼いだ情報たちだ。義兄の次郎兵衛(中村蒼)、蕎麦屋「つるべ蕎麦」の主人・半次郎(六平直政)に協力を仰ぎ、実際に吉原を利用する男たちから率直な意見を集めていく。そのなかには、うつせみ(小野花梨)と想いを通わせる浪人・小田新之助(井之脇海)の姿もあった。
聞こえてきたのは吉原細見に載っている情報は、花の井(小芝風花)がいる「松葉屋」ような格式のある大見世のものばかりで、庶民の男たちには手が届かないという不満。また、懐に入れて吉原を練り歩くにはかさばってしまうという携帯性の悪さも不満に思っているという声だった。
「ならば」と、客が格安で遊べる河岸見世の情報まで徹底的に網羅しながら、薄くて持ち歩きやすいものを作ってやろうと息巻く蔦重。もちろん、それは誰が考えても骨の折れる作業。しかし「無茶だからこそ値打ちがある、決め手になる」と。
ひと肌脱ごうと思わせる気概を示す

身体を痛めて稼ぐ運命にいる遊女たちに、せめて客を選ばせてあげたい。それくらい多くの客を集める本を、錦絵を作ってあげたい。花魁たちに胸張らせてやるのが「たった一つの心意気」「ともに戦ってくれ」と訴える蔦重の言葉は「ぐっときちまったよ」と、あの忘八たちの心をも動かす。
「吉原の遊女たちのために」その思いだけで儲け度外視で走り回る蔦重と、「吉原の甘い密を吸いたい」という目論見で体裁を整える西村屋と。2冊並んだ細見の仕上がりの違いは一目瞭然。その最も大きなポイントとなったのは、花の井が5代目瀬川の名跡を継いだという最新情報が載っているかどうかだった。