朝ドラは視聴者の人生をも見つめ続けている 8時からの15分がもたらすものを再考

朝ドラは視聴者の人生をも見つめ続けている

 橋本環奈が戻ってきた。朝ドラことNHK連続テレビ小説『おむすび』第18週「結、管理栄養士になる」では、物語は結がすでに管理栄養士になって4年が経過しているところからはじまった。娘の花(宮崎莉里沙)も成長して8歳。サッカー好きの活発な子に育っている。

 管理栄養士になるまでの過程や、なったばかりの新人時代の苦労は描かず、業務を中心に描くようだ。ここからはいよいよ、みんな大好き「お仕事」ドラマのはじまりか。あるいは、民放の連ドラで人気の医療ドラマや刑事ドラマのようなパターンか。それは、1話完結形式で、毎回、患者や被害者加害者などがゲストで登場し、その人の人間ドラマが描かれ、主人公がそれを見つめるというようなドラマであろうか。

 第18週の5日間で、ネフローゼ症候群の少年や、潰瘍性大腸炎の中年男性が登場し、彼らは病院食を食べず、医師を困らせる。そこで結が管理栄養士の観点から、食を通して、彼らの頑な心をほぐしていった。

 結の勤務する大病院には、NSTという、担当の科を超えて栄養管理に特化したチームがあり、そこに結が参加することによって、科を超えて結が様々な患者と接することができる設定を付加し、小児科から消化器科まで、バリエーションあるエピソードづくりが可能になっている。

 連ドラでは1時間でひとりの物語を描くが、朝ドラだと1話は15分。2話分使っても30分。次々、エピソードを描かないとならないからさぞ脚本家は大変であろう。病気のこと、栄養のこと、病院のことと、知識がたくさん必要である。逆に、ワンエピソードが短くなる分、深堀りは控えめで、誰もがわかりやすいようなさわりの部分のみを描いているが、ここまで省略する前にインプットした知識の分量はいかばかりか。バッサリ捨てる潔さに感服する。

 実はそこが、従来の朝ドラとは違う新しい点ではないかと思うのだ。いわゆる朝ドラは、一人の人間の人生の物語が多い。誕生して家族に育まれ成長し、就職、結婚、出産と様々な人生イベントを体験していく。その営みを、愛おしく見つめ、しみじみする24時間のうちの15分。それを「時計代わり」とたわいない存在のように言われたりもする。つまり、朝の忙しい時間帯に、朝食の支度、出勤の支度などをしながら、耳でセリフを聞き、目の端で朝ドラを観て、左上に大きく出ている時間を確認している。いや、確認しなくても、ドラマがはじまったら8時。終わったら15分。終わったら家を出ると、カラダに叩き込んでおけば、1日のはじまりに間違いはない。だが、ほんとうにただそれだけであろうか。

 「大きな古時計」という曲がある。平井堅も歌っていたから、知っている人も多いであろう。おじいさんが生まれたときに家に来た時計が、おじいさんとともに100年動いていたと振り返り、おじいさんの人生を讃えるエモーショナルな歌である。時計が、おじいさんの人生をずっと見つめてきたということなのだ。朝ドラにおける時計も実はこういう意味なのではないかと筆者は思う。主人公の人生を、あるいは、朝ドラを観ている視聴者の人生を、規則正しく時を刻みながら、時計は見つめてきたのではないだろうか。

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