朝ドラは視聴者の人生をも見つめ続けている 8時からの15分がもたらすものを再考

朝ドラは視聴者の人生をも見つめ続けている

 単に今何時? 8時15分、出かけることを促す合図のためだけではなく、8時になると服を着替え、8時15分に出かけたり、8時になるとお湯を沸かしたりと、そんな毎日のルーティンの積み重ねがあり、やがて、8時15分になると学校に出かけていた子が、もっと前の時間に出勤するようになり、結婚して、夫を8時15分に見送るようになったり、実家に残された老夫婦が8時なるとお茶をいれてテレビを観るようになったり。そんな生活の風景を愛おしく思えるのが朝ドラで、それは第18週から登場した濱田マリが出ている再放送中の『カムカムエヴリバディ』で端的に描かれていた。錠一郎(オダギリジョー)や雪衣(岡田結実)は朝ドラが好きで、朝欠かさず観ていた。それが彼らの人生のささやかな支えになっていた。

 どんな時代でも、どんな人物でもいい。その人たちの生活が、丁寧でもラフでも、貧しくてもお金持ちでもいい。とにかくその生活の個性を丹念に描写する、それが視聴者と重なる瞬間がある。それが朝ドラなのではないかと筆者は、長年、朝ドラレビューを書いてきてそう思うに至った。

 個性というものを、全部を足してその数で割った、平均的なものにしてしまったら味気ない。例えば、『おむすび』第89話、ネフローゼ症候群を患っている晴斗(高田幸季)という少年が食べたかった、亡くなったお父さんのカレー。牛すじとトマトが絶対で、クミンで香り付け、チョコレートを隠し味に。このメモを見ただけで、これはどんな味や色や香りなんだろうか、と非常にイマジネーションが湧いた。晴斗君という少年とお父さんがどんな日々を過ごしていたのか、その特別な時間が見えてくるようだった。

 おそらく、病院食のカレーだと、どうしても、全部を足して割った平均的なカレーになってしまいそう。カレーに限ったことではなくすべての病院食が。人間のそれまでの人生を効率化の名のもとに平均値にならしてしまうことがあっていいわけはない(それがどれだけ大変なのかはもちろんわかる)。それをどうやって一人一人の病状のみならず、気持ちに寄り添うものにできるのか。『おむすび』栄養士編がもし、1話完結形式ふうになるとしたら、そんな物語になったら、それは形を変えながらも、朝ドラ魂を継承していると思うのだ。

 家族で、栃木弁(翔也)、博多弁(結)、大阪弁(花)と違う言葉を使っているのも固有性の現れであろう。

■放送情報
連続テレビ小説『おむすび』
NHK総合にて、毎週月曜から金曜8:00〜8:15放送/毎週月曜〜金曜12:45〜13:00再放送
BSプレミアムにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜8:15〜9:30再放送
BS4Kにて、毎週月曜から金曜7:30〜7:45放送/毎週土曜10:15~11:30再放送
出演:橋本環奈、仲里依紗、北村有起哉、麻生久美子、宮崎美子、松平健、佐野勇斗、菅生新樹、松本怜生、中村守里、みりちゃむ、谷藤海咲、岡本夏美、田村芽実ほか
語り:リリー・フランキー
主題歌:B'z「イルミネーション」
脚本:根本ノンジ
制作統括:宇佐川隆史、真鍋斎
プロデューサー:管原浩
写真提供=NHK

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