2025年“声優ガールズバンド”の新地平 『ガールズフィスト!!!! GT』の国境を越えたライブ力

KADOKAWA発のメディアミックスプロジェクト『ガールズフィスト!!!! GT』。同名の漫画作品を原作とし、YouTubeを中心にショートアニメも展開されている。キャラクターボイスを務める声優陣によるパンクロックバンド・GIRLS' F1ST!!!! GTは、ライブでの大音量のロックサウンドやオーディエンスとの熱のある掛け合いなど、その迫力のパフォーマンスが評価され、2024年12月末には中国でのワンマンライブを成功させた。
一方で、活動が制限されたコロナショック以降はメンバーの交代なども重なりプロジェクトの存続が危ぶまれたことが何度もあったというが、いかにして苦難を乗り越え、今に至るのか。そして今後、「バンドアニメ」ブームの新機軸となりうるのか。
メンバーの浅見春那(Vo.奈川芳野役)、内山つかさ(Dr.白瀬双葉役)、奥村真由(Gt.坂ノ下奏恵役)、八木萌々菜(Ba.藤森月役)、原作漫画の担当編集である『電撃コミックレグルス』(KADOKAWA)編集部・高橋輝が、これまでの歩みを明かした。
“次世代声優ガールズバンド”GIRLS' F1ST!!!! GTとは?

高橋輝(以下、高橋):元々は「パンクロックの漫画を作ってくれないか」とレコード会社さんより提案があったのがきっかけで、2018年7月に『電撃PlayStation』の付録『月刊デンプレコミック』の連載として、いわゆる“無印版”の『ガールズフィスト!!!!』(漫画:ぼみ/原作:木瓜庵)がスタートしました。2018年10月には、同作のキャラクターたちを演じる声優さんたちのリアルバンドが結成され、公開バンド練習などを経て翌2019年5月からはワンマンライブも行うようになりました。200人キャパのライブハウスでほぼ満員になるくらい、さしたる宣伝予算やメディアミックス予定もなかった駆け出しのプロジェクトとしては盛況だったんです。
——初期の時点で声優さんたちのパフォーマンスのポテンシャルはあったわけですね。
高橋:バンド経験のないメンバーが集まってはじまったバンドだったので、その一生懸命な姿や成長を見守るような楽しさもファンの方々は感じてらっしゃったと思います。一方で、これは私の責任なんですが漫画のほうはヒットとまではいかず、コミックス第2巻でいったん完結となってしまいました。ただ、とにかく声優さんバンドのライブのほうがとても盛り上がっていたこともあって、「このまま終わりにするわけにはいかない!」と思い、別の新たなストーリーの漫画をもう一度展開していこうと考えました。そこで、次の『ガールズフィスト!!!!』を描いていただくのはこの方しかいないと、なじみ先生にお声がけし、キャラクター設定や物語を一新した新たなシリーズ『ガールズフィスト!!!! GT』を描いていただくことになったんです。ところがそんな矢先の2020年春に今度はコロナショックがあって、コンテンツの大きな魅力でもあったライブのほうが開催できなくなってしまいました。

——コロナ禍初期からは結構時間は経ちましたが、やはり当時エンタメ産業は大打撃を受けましたよね。
高橋:「バンド」や「アイドル」もののコンテンツの運営の方々は、みなさん本当に大変だったかと思いますが、『ガールズフィスト!!!! GT』も同様で、コロナ禍はとにかく不遇で音楽活動はままならず、メンバーの脱退などもあり厳しい時期が続きました。ある程度規制が緩和された2022年の5月、6月のタイミングで、漫画のストーリーと連動した楽曲(コミックス『ガールズフィスト!!!! GT』第1巻第9話に登場する「さよなら MY LONELINESS」)の発表と、2年半ぶりのワンマンライブを行いました。そのライブは盛況だったんですが以前の勢いは取り戻せず、最終的に企画当初から組んでやってきたレコード会社さんがプロジェクトから離れることになってしまいました。ただ幸いなことにその後、ワーナーミュージック・ジャパンさんとタッグを組むことになり、音楽面での展開が続けられることになりました。昨年の5月からは5ヵ月連続で計14曲の新曲をリリースさせていただきました。
——それから、現在の中国での展開までどのような経緯があったのでしょうか?
高橋:2024年6月からは楽曲リリース記念のワンマンライブをほぼ毎月開催していますが、なかなか以前のように動員が戻らず厳しい状況ではあったんです。でもその反面、声優さんたちのバンドとしての演奏力というか、パフォーマンス力はどんどん上がっていたんですね。8月30日の吉祥寺SHUFFLEでのワンマンからは新しいベーシストとして八木萌々菜さん(藤森月役)が加わったんですが、八木さんのサウンドが力強いおかげなのか、その時期からワンマンライブや対バンでの盛り上がりや口コミでの評価が突然高まりはじめたんです。X(旧Twitter)を見ていても明らかにライブの反応や感想などは増えている状況で。それもあってメンバーの所属する声優事務所さんが取り持つご縁もあり、昨年末に中国・上海でワンマンライブを行わせていただくことにもつながりました。数百人規模のお客さんを動員した中国での盛り上がりは驚くべきものがあり、声優さん方4人のバンドとしての成長が、何か状況を大きく変えはじめているのではないかと感じています。
——2024年12月29日の中国・上海でのワンマンライブは大成功だったようですね。改めてメンバーの皆さんに感想を伺いたいと思います。
内山つかさ(以下、内山):みなさんが温かく迎えてくださってうれしかったです。
浅見春那(以下、浅見):ビックリしたよね! 日本語で声を出してくれたり、名前も呼んでくれたりして。
八木萌々菜(以下、八木):中国語で「もんもんつぁい」って呼んでもらえて本当にうれしかったです。
——Xの映像で、今GIRLS' F1ST!!!! GTが日本で開催しているライブハウスの5〜6倍は大きいんじゃないかというほどの会場が大盛り上がりなのを見て驚きました。
\GFGT!!!! 速報‼/
中国上海にて #ガールズフィスト!!!! GT初の海外ライブを行わせていだだきました✨現地の盛り上がりを少しだけお届け🎵#ガルフィス 1月からのライブや対バンのスケジュール&詳細は、下記「ガールズフィスト!!!! GT」HPの
👇“NEWS”をご確認ください!https://t.co/e4Nbil0IiI pic.twitter.com/F3gR9pytmv— ガールズフィスト!!!!公式【1/19ワンマン@秋葉原ZEST チケット発売中‼】 (@GirlsF1st) December 30, 2024
内山:中国の方の中には前から私たちの応援のためだけにXのアカウントを作ってくださるような人もいて、応援の声を届けてくださっていたのは知っていたんですけれども、それにしてもこんなに大勢の方が、初めてお会いするのにこんなにもウェルカムに迎え入れてくださるとは思わなくて。セットリストもほとんどがオリジナル楽曲だったんですけど、みなさんすごく聴き込んでくださっているんだって伝わってきて、「みなさん練習してきました?」と思うくらい(笑)。
奥村真由(以下、奥村):「え、初めましてだよね?」って思ったもんね(笑)。
内山:こんな規模の会場でやると聞いたときは、正気の沙汰じゃないというか、「えぇ!? ここですか!?」と思ってびっくりしました。ステージビジョンの演出もすごかったし、キャラクターの等身大パネルもあって、ファンの方の歓声もすごくて、本当に演奏していて感動しました。中国の盛り上がりもそうですが、日本でのワンマンでの手ごたえも感じられるようになってきていたので、2024年のラスト3か月は本当に充実してましたね。

高橋:自分が運営目線で見てきた限りでは、2024年9月に出演した渋谷WWWや渋谷 eggmanでの対バンライブあたりから、バンドとしての一体感やパフォーマンスの迫力のようなものがすごく上がったなと感じていました。対バンライブなのでGIRLS' F1ST!!!! GTを知らないお客さんも多いのに、会場が明らかにノってくれてるなというのを感じたんです。何かみなさんの中で変化した理由ってあったんですかね?
浅見:理由……なんだろう……。
高橋:もちろん8月末に八木さんが入ったというのは大きかったと思いますが。
内山:そうですね。時期的にはそういうことですよね。多分、そのあたりで「この4人の音楽ってこんな感じなのかな」とわかりはじめて、「とりあえず合わせる」くらいの段階から音で遊べるようになったというのはあるのかもしれないです。
——僕が初めて観たライブが2024年10月5日の新宿SUMRAIで、ちょうど八木さんが加入した直後くらいからハマりはじめました。八木さんがとても馴染んでいたので加入直後だと後から知って驚きました。
八木:わー、うれしい!
——MCでもだいぶイジられキャラだったので(笑)。改めて加入してみていかがでしょうか?
八木:もともと高校生のときにバンドはやっていたんですけど、文化祭のためだけのバンドみたいな集まりだったので、何回も何回もメンバーと合わせて音楽を作るという経験はなくて。なので、こだわるポイントを間違えてご迷惑おかけしたりとかはたくさんしましたね……。
奥村:その日、合わせようとしていたのと全然違う曲を練習してきて、「えぇ!?」みたいなこともあって(笑)。
八木:すみません! 練習はもっと頑張ります(笑)。
『ガールズフィスト!!!! GT』ショートアニメ、リアルライブでの展開
——YouTubeのショートアニメでは“アニメ声優”としての演技を披露されていますが、映像作品での演技とリアルライブのパフォーマンスに違いはありますか?
内山:どちらにしても誰かを演じているような感覚はあります。アフレコのときはもちろんそのキャラクターになりきっていますし、でもライブのときの自分も普段の自分とはやっぱり違って見せたい。ライブでは全身が見られているので、収録のときとは違って表情だったりとか体の動きだったりとかで演じることを考えています。
浅見:収録とライブでは結構違うかも。
内山:浅見さんのキャラの場合は、奈川芳野ちゃんがすごく大人しいじゃない?
浅見:人前では歌えないような子で、ぬいぐるみとかの前で歌の練習をする子なんですけど、でも自分がリアルのステージに立ったらやっぱりフロントマンとしてのポジションになるので、自然と楽しんで、「お客さんに負けないぞ!」みたいに思うところがあります。

奥村:私が演じる坂ノ下奏恵ちゃんは、あんまりギターは上手じゃないけどとにかく楽しく演奏するような子で、実際のライブのときもいつも頭の片隅にはいますね。自分の性格が出るときもあるんですが、「彼女みたいにギターソロも恐れずに楽しみたいな」と思いながら演奏しています。
八木:奏恵ちゃん、(奥村さんの後ろに)見えます!
奥村:見える? よかった(笑)。ももちゃん(八木さん)は?
八木:私が演じてる藤森月ちゃんは……私と真逆で冷静沈着なタイプですね。
浅見・内山・奥村:(笑)。
八木:演奏している姿もかっこよくキメているような子なんですが、私自身が結構喜怒哀楽が出てしまうタイプなので、フレーズを間違えたときとかにも表情に出さないように、がんばって完璧に! というか……自信満々に! 弾いています(笑)。
——でも八木さんは、ベースを弾いているときの表情はかっこいいですよね。サウンドも力強い。
八木:本当ですか? やった!
浅見:本番中もベースの音がしっかり聴こえてきます。
内山:MCの頼りなさと(笑)、演奏のときの頼りがいのあるギャップは、お客さんもだと思うんですけど、我々もすごく感じています。

——キャラクターの演技とライブ演奏に共通点はありますか?
内山:私たちの演じるキャラクターは「パンクロック同好会」に所属していて、もともとみんな何かしら抱える悩みがあるなか、パンクロックに出会って音楽に目覚めたというストーリーなんですね。だからキャラクターたち同様、パンクロックに対して強くリスペクトを持っています。
——毎回ワンマンライブでは、洋楽カバーがあるのもおもしろいなと思っていつも観ています。ぜんぜん世代ではない曲も演奏されていますよね?
内山:この活動を始めるまでパンクに触れてこなかったり、そもそも楽器に初挑戦する子もいたりしたので、練習の課題曲としてパンクロックのレジェンド的な名曲がピックアップされることが多かったんです。
——Nirvanaとかならまだしも、Rancidまでコピーされていたので、「まあまあコアなパンクスの人がプロデュースしてるんだな」と思いました(笑)。
浅見:歌詞の和訳を見ると「パンクって曲にするとこんなこと叫べるんだ!」って思います。
内山:メッセージ性が強いよね。シンプルでもすごいかっこいいメロディーもあるし、曲調もストレートですごい覚えやすい。
——近年のアニソンの1つの傾向として、すごく音数が増えてアレンジも複雑になっているなか、GIRLS' F1ST!!!! GTはシンプルなパンクサウンドを、パフォーマンスも含めて徹底していてカッコいいです。
内山:パフォーマンスに関しては、「とにかく楽しんで」とアドバイスを頂いてきたので、ライブ当日は「ただただひたすらに音楽を楽しもう」という気持ちで毎回挑んでいます。自分たちの昔のライブ映像をたまに見るんですけど、それはもう見れたものじゃなくて(笑)。でも1人での個人練習や、スタジオ練習のときに少しピリつくような瞬間も含めて、それを乗り越えた本番は本当にご褒美タイムだと思っているので、その反動もあってライブはより楽しめているかもしれないです。
——4人でのリハーサルは結構厳しくやられているんですか?
内山:厳しいというか、こだわるポイントが増えてすごく熱が上がってしまう瞬間があります。