松井玲奈、“自然体”で放つ唯一無二の存在感 『おむすび』で示すエンタメにおける重要性

松井玲奈、『おむすび』で示す自然体な演技力

 放送中の朝ドラ『おむすび』(NHK総合)は、じつににぎやかな作品だ。平成元年生まれのヒロイン・米田結(橋本環奈)の人生を描くこのドラマの背景には、阪神・淡路大震災があり、第15週では東日本大震災が人々を襲った。どちらもいまだに生々しい記憶となっている視聴者は多いことと思う。それでも本作は、自分らしく生きる“ギャルマインド”を令和の時代に提示するものであるためか、登場人物の誰もが年齢や性別を問わず明るい。そんなキャラクターのうちのひとりが“チャンミカ”こと相原三花。演じているのは松井玲奈である。

 本作は、ヒロインの結が栄養士として、“食”を通じて人の心と未来を結んでいく青春物語を描くもの。チャンミカは結の姉である歩(仲里依紗)の中学時代からの友人で、神戸の元町にある古着屋「ガーリーズ」を経営する人物だ。古着のバイヤーをしている歩とともに、ファッションの力で神戸のギャル文化を支えている重要な存在なのである。

 『おむすび』の世界へのチャンミカの登場は、とても自然なものだった。歩が「ガーリーズ」を訪れると、そこに彼女がいた。店主なのだからいるのは当然なわけだが、その場、その瞬間にどのように存在しているかが、この人物が視聴者に与える印象を大きく左右する。

 演じる松井はチャンミカのキャラクターを変に強調することなく、あくまでも“歩がやってきた古着屋の店主”に徹していたと思う。そしてここでの歩とのやり取りの中で、ふたりがどのような関係性なのかを軽やかに示してみせた。その声の調子や表情から、ふたりが親しい間柄であることを、私たちの誰もが瞬時に理解したことだろう。

 かぎられた出番のうちに、本作におけるチャンミカのキャラクターを位置付けてみせる。この初登場シーンのふたりのやり取りは何でもないものだが、いや、何でもないものだからこそ、ほんのわずかな時間で自身の演じるキャラクターがどのようなものなのかを提示するのは容易ではないはずだ。けれども松井はこれをサラリとやってのけた。自身が務める役どころへの理解度の高さと、すでに出来上がっている世界観に溶け込む柔軟性、そして歩役の仲との息の合った掛け合いが、これを実現させたのだと思う。彼女が何者であるかを示す特別なセリフは要らないのだ(結との出会いのシーンには用意されているが)。

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