『silent』『いちばんすきな花』『海のはじまり』 生方美久が紡ぎ続ける“優しい世界”を再考

生方美久が紡ぎ続ける“優しい世界”

 この「静かで優しい世界」は、2023年に執筆した二作目の連続ドラマ『いちばんすきな花』では、より純度が増している。

 本作は、塾講師の潮ゆくえ(多部未華子)、出版社勤務で実家が花屋の春木椿(松下洸平)、美容師の深雪夜々(今田美桜)、イラストレーターを目指しながらコンビニでバイトする佐藤紅葉(神尾楓珠)の物語。

 4人は幼少期から「二人組を作る」のが苦手で、社会には馴染んでいるが、他人と共有することができない悩みを抱えている。偶然出会った4人は椿の家に集まるようになり、お互いの悩みを告白するようになる。4人は恐る恐る自分の悩みを告白し、相手の悩みにも優しく寄り添う。

 会話劇として言葉の純度が高まっているのが本作の特徴で、前作以上に生方の作家性が強まっている。同時に物語も複雑で練られた構成となっており、それぞれの会話に登場する「志木さん」「美鳥ちゃん」「みどちゃん」「先生」が、実は同一人物の志木美鳥(田中麗奈)だったことが判明し、彼女の半生が語られる展開は圧巻だった。純度の高い作品であるため、『silent』よりも難解で好き嫌いの別れる作品だが、筆者は本作が一番好きだ。

『いちばんすきな花』が描いた“みんな”の正体とは? 圧倒された脚本家・生方美久の構成力

木曜劇場(フジテレビ系木曜22時枠)で放送されていた連続ドラマ『いちばんすきな花』が最終回を迎えた。  塾講師の潮ゆくえ(多部…

 そして今年、月9(フジテレビ系月曜21時枠)で放送された『海のはじまり』は、ある日突然、娘がいることがわかり、父親として育てることを決意する青年の物語。

 主人公の月岡夏を目黒蓮が演じ、チーフ演出に『silent』の風間太樹が参加している本作は、モノローグやナレーションが存在せず、会話も最小限のやりとりで表現される演技と映像の美しさを観せることに特化した作品で、『silent』で切り開いた映像表現をより先鋭化させたドラマだったと言える。

 『silent』のテーマが「恋愛」、『いちばんすきな花』が「友情」だったのに対し、『海のはじまり』は「家族」がテーマとなっている。「家族」は、過去二作の根底にも流れていたテーマだが、今作ではそれが全面に打ち出されている。同時にこれまで彼女が描いてきた「静かで優しい世界」を踏襲しつつも、その「優しさ」が抑圧となっているのではないか? という自己言及的な要素も内在する。その意味でも生方ドラマの集大成だと言える作品だろう。

 まだ連続ドラマは3本しか書いてないが、どの作品も生方にしか書けないドラマとして評価が高く、彼女の登場によって若手脚本家にオリジナルドラマを書かせたいという機運も高まっている。現在、生方は31歳。まだまだ若手の彼女が、今後どのような世界を紡いでいくのか、引き続き見守りたい。

■配信情報
木曜劇場『いちばんすきな花』
TVer、FODにて配信中
出演:多部未華子、松下洸平、神尾楓珠、今田美桜、齋藤飛鳥、一ノ瀬颯、白鳥玉季、黒川想矢、田辺桃子、泉澤祐希、臼田あさ美、仲野太賀ほか
脚本:生方美久
プロデュース:村瀬健
演出:髙野舞
音楽:得田真裕
主題歌:藤井風「花」(HEHN RECORDS / UNIVERSAL SIGMA)
制作・著作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/ichibansukina_hana/
公式X(旧Twitter):@sukihana_fujitv
公式Instagram:@sukihana_fujitv

木曜劇場『silent』
TVer、FODにて配信中
出演:川口春奈、目黒蓮(Snow Man)、鈴鹿央士、桜田ひより、板垣李光人、夏帆、風間俊介、篠原涼子ほか
脚本:生方美久
演出:風間太樹
プロデュース:村瀬健
音楽:得田真裕
制作:フジテレビ
©︎フジテレビ
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/silent/
公式Twitter:https://twitter.com/silent_fujitv
公式Instagram:https://www.instagram.com/silent_fujitv/

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