『宙わたる教室』涙なしには観られない第9話 窪田正孝の言葉が巡り巡って彼自身を救う
無駄なことなど、人生には一つもない。藤竹がアメリカで出会ったナバホ族の青年は、隙間だらけの家で寒さをしのぐために、集めた廃品でトレーラーハウスの暖房装置を作ったという。そのアイデアが月面に建設する有人基地の蓄熱技術に応用できる可能性があるとして、少年は研究に加わった。少年はもともと科学に興味があったわけじゃない。だが、生活をより良くするための工夫とアイデアが科学を発展させたのだ。
家庭の事情で高校に進学できなかった長嶺(イッセー尾形)が工場で働いて得た技術が、アンジェラ(ガウ)が良いことばかりではなかった人生の中で培ってきた知恵と優しさが、1人になれる空間でSF小説の世界に没頭してきた佳純(伊東蒼)の豊かな想像力が、そして長年眠ったままだった好奇心を呼び覚ました岳人がひたすら手を動かし、ぐんぐん吸収していった知識が、「火星のクレーターを再現する」という前代未聞の実験を成功まであとわずかというところまで連れてきた。人は生まれながらにして平等ではないかもしれない。だけど、たとえ自分の置かれた環境が恵まれていなかったとしても、たまに途方に暮れて涙を飲みながら、少しでも前に進もうとしてきたその轍が、時に誰かの道しるべとなる。
きっと藤竹は予想を遥かに超えて、前進する部員たちの姿に救われてきたのだろう。朴(阿佐辰美)も岳人の姿を見て、自分も変わろうともともといたコミュニティを抜け出し、祖母の店を手伝い始めた。岳人も朴も決して孔太を見捨てたわけじゃない。本当にやりたいことを見つけただけ。それだって3人一緒に過ごした時間がなければ、見つからなかったかもしれない。「違うところで生きてても、それを認め合いながら生きてくっつうのがダチってもんじゃねえのかよ」と岳人は言う。そういえば、火星で15年間旅を続けた探査車オポチュニティには双子のきょうだいがいたんじゃなかったっけ。進む道は違っても、同じ星で頑張っている仲間がいるというだけで、どれだけ心強いか。願わくば、孔太も岳人たちのように自分の道を見つけられますように。
第9話は、再び始動した科学部のみんなが一斉に実験結果を覗き込む場面で幕を閉じる。その驚きと喜びに満ちた表情を、石神に見せてあげたい。そして、知ってほしい。これだけバックグラウンドが違っても、誰一人として置き去りにせず、前進と後退を繰り返しながら進んでいった先に新しい景色があるということを。それを彼らが証明するまで、あともう少し。
■放送情報
ドラマ10『宙わたる教室』
NHK総合にて、毎週火曜22:00〜22:45放送
BSP4Kにて、毎週火曜18:15〜1900放送
NHKプラスにて、同時配信・見逃し配信(放送後から1週間):https://www.nhk.jp/p/ts/11GMGMRG5V/plus/
出演:窪田正孝、小林虎之介、伊東蒼、ガウ、田中哲司、木村文乃、中村蒼、イッセー尾形 ほか
原作:伊与原新『宙わたる教室』
脚本:澤井香織
演出:吉川久岳(ランプ)、一色隆司(NHKエンタープライズ)、山下和徳
制作統括:橋立聖史(ランプ)、神林伸太郎(NHKエンタープライズ)、渡辺悟(NHK)
写真提供=NHK