映画『名探偵コナン』は日本の『ワイスピ』に アクション好き必見の“タガ”の外れ具合
年に一度、シンガポールのシンボルであるマリーナベイ・サンズを盛大に爆破したり、オリンピックに際して国立競技場を破壊し尽したりする映画シリーズの新作が公開されるというのは、アクション映画好きにとって何物にも代えがたい幸福である。
毎年「そんなことしちゃダメでは?」という理性のタガがコナンの犯人並みに外れていることでお馴染みの製作チーム。今年は100万ドルの夜景を望める函館を舞台に、複数勢力の入り乱れるお宝争奪戦が勃発。結果、函館が法の機能してない恐るべき土地と化していたが、とても楽しかったので『名探偵コナン 100万ドルの五稜星』の魅力をご紹介。
本作を一言で表すなら「怪盗も探偵も映画オリキャラも真剣ブンブンぶん回し映画」だ。西の高校生探偵・服部平次が怪盗キッドに真剣で斬りかかる冒頭から(探偵がそんなことしちゃだめだと思う)みんな真剣を扱うことに躊躇いが一切ない。幸い、コナン映画製作チームにも正気な部分はあるようで、今回は刀がキーアイテムになっている。本作でキッドが狙うお宝は土方歳三にまつわる刀であり、それが第二次世界大戦下において戦況を一変させるほどの兵器の在り処を示しているという……。つまり、この兵器争奪戦に加わっている平次やキッドが真剣を手にしているのも必然というわけだ(それを行使するとなるとまた別の問題が出るが)。
というわけで本作はご立派な剣戟映画として仕上がっている。謎解き部分はかなりごちゃごちゃしており、正直全く頭に入ってこなかったが武器商人や財閥など複数勢力入り乱れる兵器争奪戦は見応えがある。特に武器商人の大暴れがぶりが凄く、街中で白昼堂々銃撃戦をおっぱじめた時は度肝を抜かれた。もう殺人事件どころじゃないじゃんと思った。しかも特に逮捕されることなく逃げおおせるので、法が機能してないとも思った。
本作の脚本を務めるのは大倉崇裕。『名探偵コナン ハロウィンの花嫁』(2022年)では11月の渋谷を混沌に陥れ『名探偵コナン 紺青の拳』(2019年)ではシンガポールのシンボルを爆破して海上に叩き落とすなど、コナン映画でも屈指の破壊王と知られる名脚本家だ。彼がコナン映画デビューしたのは『名探偵コナン から紅の恋歌』(2017年)。京都を舞台に平次と和葉と紅葉の三角関係を描いた作品で、その頃から話がダレそうになると即爆破する超火力構成の脚本を書いている。また『紺青の拳』ではジャッキー・チェンの『プロジェクトA』(1983年)をパロディした海賊集団がマリーナベイ・サンズを舞台に銃撃戦を繰り広げていたので、観光名所を無法地帯にすることに関しては経験済みだ。
しかし、大倉崇裕脚本の魅力はなんといっても、原作コナンキャラに違和感がないところだろう。正直コナン映画かなり制約の多い作品だ。殺人事件とラブロマンスはマストであり、さらには爆破やアクションをしながら謎を解かなければならない。そういったノルマをこなしながらコナンのキャラクターたちを違和感なく動かせるのは巧の手腕を感じさせる。『100万ドルの五稜星』では特にその腕前が遺憾なく発揮されており、かなり無茶苦茶なアクションが発生する映画でありながらキャラクターたちが活き活きと動いている。
その中でも特によかったのは、紅葉&伊織の主従コンビだ。「平次の告白を阻止する」という理にかなった動機で「北海道の観光地を紹介する」というノルマをこなしつつ、謎解きでは重要なヒントを平次に与え、終いには明らかに法を逸脱した行為で大暴れする。今回、コナン映画にしては明らかに爆発が不足しているものの(ミステリ作品に出てはいけない形状の爆弾が出てくるが)そのフラストレーションを紅葉&伊織が見事解消してくれた。街中であんなことしちゃだめだと思う。
また『100万ドルの五稜星』で見逃せないのが、今回は青山剛昌・シネマティック・ユニバースっぽい部分もあるところだ。コナン映画の美点として、初見でもほぼ楽しめる(冒頭であらすじを必ず説明してくれるので)ところが挙げられるが、そういう意味では本作やや不親切かもしれない。ただ筆者も『YAIBA』未履修ながら青山剛昌・シネマティック・ユニバース的な部分は思い出を捏造して楽しんだし、本筋は殺人ミステリと剣戟大アクションなので、この映画がはじめてのコナンという人でも問題なく楽しめると思う。