鳥山明さんの“新しい”『ドラゴンボール』がまだ観たかった 晩年に迎えていた新境地
きっかけは2009年に始まった『ドラゴンボールZ』を再編集したデジタルリマスター版となるアニメ『ドラゴンボール改』の監修だった。2013年には漫画のストーリーの続編となるアニメ映画『ドラゴンボールZ 神と神』の原作・原案を担当し、それ以降、テレビアニメ『ドラゴンボール超』(以下『超』)や『超』に関連したアニメ映画に積極的に関わってきた。
人気作の続編を作ることは原作者でも難しく、縮小再生産になりがちだ。しかし、鳥山さんの関わり方は実に見事で、休眠状態にあった『ドラゴンボール』に新たな息吹をもたらすことに成功した。
600万部時代の『少年ジャンプ』を代表するバトル漫画として、今でこそ神格化されている『ドラゴンボール』だが、その影響力ゆえに連載当時は批判の声も多かった。
当初は『Dr.スランプ』の延長線上にある牧歌的な漫画だった『ドラゴンボール』は、話が進むにつれ、主人公の悟空がより強い敵と戦いを繰り広げる激しいバトル漫画に変わっていった。その結果、トーナメントバトル、死んだ悪役が生き返って味方となり、より強い敵と戦うというバトルのインフレ、人気が続く限り延々と引き伸ばされる連載といった、当時のジャンプ漫画の成功パターンを踏襲することとなる。
同時に、鳥山さんが描くキャラクターも等身が低いかわいらしいものから、激しいバトルにふさわしい筋骨隆々の雄々しい姿へと変わっていったため、『Dr.スランプ』のユートピア性を愛するファンからは反発も多かった。
『ドラゴンボール』のバトル漫画としての先鋭化は80~90年代のジャンプ漫画のセオリーをなぞったものであり、鳥山さんだけの責任ではないのだが、最大のヒット作だったため、批判の矢面に立たされることが多かった。
何より鳥山さん自身が、終盤の魔人ブウ編になると、ジャンプ漫画のセオリーに抗うかのように『Dr.スランプ』の時代の牧歌的な作風に戻そうと悪戦苦闘しているように見えた。おそらく激しいバトルを描き続けることに本人が一番疲弊していたのだろう。
『ドラゴンボール』の連載を終えた後、鳥山は絵本のような牧歌的な作品を発表するようになった。『SAND LAND』を筆頭に、どの作品も魅力的だったが、ジャンプや少年漫画のトレンドとは大きく隔てた独自路線となっており、次第に作品数も減っていった。
そのため『ドラゴンボール』が好きだった読者が喜ぶような激しいバトル漫画はもう描かないのだろうと諦めていたのだが、『超』に関連したアニメ作品はどれも素晴らしく『Dr.スランプ』の牧歌的なユートピア性と『ドラゴンボール』のバトル漫画の世界が融合したこれまでにない作風となっている。連載終了から長い年月を経て、鳥山さんはついに新しい『ドラゴンボール』を見つけたのかと感慨深かった。
今年の秋に放送される予定の新アニメシリーズ『ドラゴンボールDAIMA』は、そんな『超』の流れをより突き詰めた新しい作品になるのではないかと期待していた。
だからこそ、突然の訃報はとても残念でならない。