平安時代に血肉を与えた『光る君へ』の凄さ “煌びやかな地獄”から目が離せない
本作で描かれる理不尽な権力によって弱者が容赦なく蹂躙される、性と暴力が剥き出しになった世界を観ていると、2010年代に人気を博したダークファンタジードラマ『ゲーム・オブ・スローンズ』(以下、『GOT』)を思い出す。
本作は世界中のフィクションに影響を与えており、日本では2022年のNHK大河ドラマ『鎌倉殿の13人』に、その影響がうかがえる。
『光る君へ』も『GOT』以降のダークな歴史ドラマと言えるが、一方で、お互いの素性を知らないまま惹かれ合っていくまひろと道長のすれ違いのメロドラマを真正面から堂々と描いていることが、本作独自の魅力となっている。
第4回の終盤。宮仕えするまひろは源倫子(黒木華)に頼まれ、五節舞を披露することになる。そこで道兼の隣に三郎がいる姿を目撃し、三郎が藤原道長だと気付きショックを受ける。親の仇と最愛の人が兄弟だったことを知って苦悩するまひろの状況は、現代が舞台のドラマだったら過剰すぎると感じたかもしれないが、平安時代を舞台にした時代劇なら違和感なく受け入れられる。
脚本の大石静は『セカンドバージン』(NHK総合)や『星降る夜に』(テレビ朝日系)などのラブストーリーを得意とする作家として知られている。あの手この手でメロドラマを紡ぐ彼女の手腕には毎回感心するが、一方で現代でやるには無理があるのではないか? と感じる瞬間も少なくない。
もちろん、そんな無理のある展開を笑いながら楽しむという昼ドラ的消費も可能で、大石自身が、そういった視聴を許容しているように感じることも多い。
昨年配信された宮藤官九郎と共同脚本のドラマ『離婚しようよ』(Netflix)はコメディに寄せることで大石のメロドラマが活きるという絶妙なバランスによって成立していた。ただ、この観せ方は、宮藤というコメディの達人がいたからこそ成立した一手であり、豪速球のメロドラマこそが彼女の本領ではないかと思っていた。『光る君へ』は平安時代を舞台にしたことで、メロドラマが違和感なく活き活きと描かれている。
平安時代という煌びやかな地獄で描かれるド直球のメロドラマはどこに着地するのか? 源氏物語を参考書にしながら、1年間じっくり見守りたい。
■放送情報
『光る君へ』
NHK総合にて、毎週日曜20:00〜放送/ 翌週土曜13:05〜再放送
NHK BS・BSP4Kにて、毎週日曜18:00〜放送
NHK BSP4Kにて、毎週日曜12:15〜放送
出演:吉高由里子、柄本佑、黒木華、井浦新、高杉真宙、吉田羊、高畑充希、町田啓太、玉置玲央、板谷由夏、ファーストサマーウイカ、高杉真宙、秋山竜次、三浦翔平、渡辺大知、本郷奏多、ユースケ・サンタマリア、佐々木蔵之介、岸谷五朗、段田安則
作:大石静
音楽:冬野ユミ
語り:伊東敏恵アナウンサー
制作統括:内田ゆき、松園武大
プロデューサー:大越大士、高橋優香子
広報プロデューサー:川口俊介
演出:中島由貴、佐々木善春、中泉慧、黛りんたろうほか
写真提供=NHK