『光る君へ』でなぜ『源氏物語』を描かない? 脚本・大石静に聞く、紫式部を選んだ理由

『光る君へ』脚本・大石静インタビュー

 NHK大河ドラマ『光る君へ』が1月7日よりスタートする。脚本を手がけるのは大石静。物語の主人公は、日本史の中でも最も有名な書籍と言っても過言ではない『源氏物語』の作者・紫式部/まひろ。生没年も不明で、多くがベールに包まれた女性である紫式部の生涯を、大石はどのように物語にしていったのか。これまでもタッグを組んでいる主演の吉高由里子との絆から、本作に込めた思いまでじっくりと話を聞いた。(編集部)

紫式部をあえて一言で表現すると「気難しい人」

まひろ(紫式部)/吉高由里子

――大石さんは、吉高由里子さんが主演を務めた『知らなくていいコト』(2020年/日本テレビ系)、『星降る夜に』(2023年/テレビ朝日系)で脚本を手がけています。『光る君へ』でも再タッグですね。

大石静(以下、大石):吉高さんの持ち味は弾けた明るい感じと、ふとした時の悲しさ、寂しさの両方を表現できるところ。陰と陽が同居しているので、紫式部/まひろのちょっと気難しい感じには合っているなと思っています。

――「気難しい感じ」ということですが、大石さんから見て紫式部は一言で表すとどういった女性なのでしょうか?

大石:一言では表現できないから、紫式部なんです。不条理に苛まれながら生きていくことを知ってしまった女の子で、何かにつけて真正面に向かっていく子ではなく、人生とは思い通りにいかないものという見方で少女期を過ごします。ですが、そういった沸々とした感情は文学者としての萌芽であって、そのうちそれを表現してみたくなっていく。ただ誰かの妻になりたいというだけではない、私の使命は何なのかを考えているような、知的レベルの高い女性だと思います。藤原道長(柄本佑)のことをずっと好きで、道長も何度も「自分の妻になれ」と言うんですけど、それは受け入れないんです。道長には正妻がいて、ほかのところにも女の人がいっぱいるのに、「私は不自由な思いはしたくない」と言って断ってしまう。脚本を書いている私でさえも「ここで(道長のところへ)行けばいいのに……」と思うのですが、いかない。そんな自我の強い紫式部をあえて一言で表現すると、「気難しい人」ってことだと思うんですね。

藤原道長(ふじわらのみちなが)/柄本佑

――藤原道長役の柄本佑さんの持ち味はどのように考えていますか?

大石:柄本さんはいわゆる二の線ではないかもしれませんが、デビューした頃から名優だと感じていたんです。『知らなくていいコト』で演じた役も、現場に行ってみたらすれ違うだけでうっとりしちゃうくらい素敵なんです。彼は悪役も、いい男もさりげなく演じられるので、それで今回、道長をやってほしいなと思ったんです。最初の頃の道長はそんなに上昇志向がない人ですからとぼけた感じですが、その後、あっという間に権力の頂点に立ってしまう。そういう時に柄本さん演じる道長の変わり目がこれから出てきますし、自分の見せ方を計算していると私は思います。ここで二枚目に見せて、ここではとぼけて見せて、というのを台本でも要求表現はしているけど、柄本さんは考えて見せることができる本当に魅力的な役者です。

――第1回の冒頭から、ユースケ・サンタマリアさん演じる安倍晴明がインパクトのある登場をしていたのも印象的でした。

大石:陰陽師の人って、私たちには計り知れないんですけど、安倍晴明は誇りを持った陰陽寮の偉い人で、常に何を考えているのか分からない雰囲気にしたいと思ったんです。権力におもねってはいるけど本当のことも見えている、そういった不思議な超能力者として描きたいなと。安倍晴明って、漫画や映画では美しい人のイメージになっていますよね。そうではなく、もう少し普通にいる人としても描きたいなと思いました。ユースケさん独特の感じは出ていると思います。これから先、彼の違う顔も見せていきたいので、ただいま頭をひねっています。

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