『さよならマエストロ』『春になったら』 なぜ“父娘の関係”を描くドラマが増えた?
父娘関係といっても描き方はそれぞれ異なるが、なんらかの理由で母親が「不在」という共通点があることは、見過ごせない。
父娘関係について考える時に真っ先に思い浮かぶのが、エレクトラコンプレックスというユング心理学の言葉だ。
ギリシャ悲劇『エレクトラ』に由来するエレクトラコンプレックスは、女児が父親に対して独占的愛情を抱き、母親に対して強い対抗意識を持つ状態のことで、男児が母親に強い愛情を抱き父親に対抗心を抱く「エディプスコンプレックス」の女性バージョンだ。
母親不在の父娘関係は、エレクトラコンプレックスの完成形と言える状態で、娘が母親の役割を果たし、擬似恋愛のような状態が生まれる。そこに娘の恋人が登場したことで出来上がる新たな三角関係が『春になったら』では描かれており、恋愛ドラマ的な構造となっている。
一方『さよならマエストロ』で描かれる父娘関係は、父と同じ音楽家になれなかった娘の挫折が打ち出されており、かつてなら「父子の物語」として描かれた「継承」の問題が父娘関係の中で描かれそうなのが、とても現代的だと感じた。
女性の社会進出によって、家事を担当する母親だけでなく働く父親としての役割も求められるようになっている。
これは『ブギウギ』などの近年のNHK連続テレビ小説(以下、朝ドラ)のヒロインの描かれ方に強く表れている。戦前や昭和初期を舞台に、女性の芸術家や実業家の半生をモデルにした朝ドラは、女性の社会的立場が弱かった時代に、男のように働き、社会的成功を収めていく姿にカタルシスがある。
その際に社会の代弁者である父親と衝突するのだが、やがて認められ、父の死後は家長として家族を守る立場になっていく。その意味で父親は社会の象徴であると同時に、乗り越えるべき師匠のような存在だと言える。
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つまり、朝ドラヒロインは、母親としての役割を果たすと同時に、父(家長)として振る舞うことが求められるようになっていくのだが、対して『さよならマエストロ』の響が興味深いのは、彼女の物語が、音楽家として父の才能を引き継ぐことに挫折した所から始まっていることだ。かつてなら父と息子の問題だった課題が、現代では女性も無関係ではいられないことが、2人の父娘関係に色濃く滲み出ている。
■放送情報
日曜劇場『さよならマエストロ~父と私のアパッシオナート~』
TBS系にて、毎週日曜21:00〜21:54放送
出演:西島秀俊、芦田愛菜、宮沢氷魚、新木優子、當真あみ、佐藤緋美、久間田琳加、大西利空、石田ゆり子、淵上泰史、津田寛治、満島真之介、玉山鉄二、西田敏行
脚本:大島里美
音楽:菅野祐悟
主題歌:アイナ・ジ・エンド「宝者」(avex trax)
撮影監督:神田創
音楽監修:広上淳一(東京音楽大学)
全面協力:東京音楽大学
企画プロデュース:東仲恵吾
プロデュース:益田千愛
演出:坪井敏雄、富田和成、石井康晴
©TBS
公式サイト:https://www.tbs.co.jp/sayonaramaestro_tbs/