『春になったら』奈緒と木梨憲武が紡ぐ日々の尊さ 大切な誰かを思うすべての人へ

『春になったら』奈緒と木梨憲武が紡ぐ日々

 ドラマの始まり方が気になる。仕事柄多くの作品を視聴する機会があるが、記憶に残る作品もあれば、そうじゃないものもある。『春になったら』(カンテレ・フジテレビ系)第1話は、画質の粗いホームビデオ風の映像で始まった。

春になったら

 6歳の時に母親を亡くした椎名瞳(奈緒)は、父・雅彦(木梨憲武)と親子水入らずの生活を送ってきた。いつもと変わらない正月の風景。ただ一つ違うことがある。それは来年の今ごろ、父がここにいないことだ。実演販売士の雅彦にとって、娘の成長は何よりの生きがいだ。腰に痛みを覚えてかかった先の病院で雅彦はがんを告げられた。ステージ4のすい臓がん。まさかと思い別の医者の診断も受けた。結果は変わらなかった。

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 瞳は父がいなくなることが信じられない。目の前にいる雅彦はいつもと変わりなく元気そのものだ。最初は、結婚に反対する父が嘘を言っていると考えたが、かかりつけ医の話を聞いてようやく本当のことだとわかった。何ごともないような顔で振る舞っている雅彦は痛みを薬で抑えている。実演販売の仕事も続けており、売り上げは部署でナンバーワン。62歳とまだまだ若い。けれども、がんで苦しんで逝った同僚を見てきた雅彦は、わずかな治療の可能性に賭ける気になれなかった。

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 年の初めの親子の食卓。仏壇で見守る母/妻・佳乃(森カンナ)の前で、父と娘は互いの秘密を打ち明けた。娘は結婚を、父は残り3カ月の命であることを告げる。人生の節目を親子の関係に重ねることで、本作のテーマを明らかにした。それは生と死の対比と言ってよく、散りゆく桜になぞらえられる季節の移ろいが、終わりと始まりを予感させた。

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 それなのに、どこかほのぼのとした空気が流れているのはなぜだろう。シリアスな空気を緩和することに大いに貢献しているのは、瞳の結婚相手の一馬(濱田岳)だ。売れないお笑い芸人で動画の再生回数は56回。キャッチャーの防具を付けて「ドンマイドンマイ! 僕は好きだよッ」を持ちネタにする“カズマルくん”は、第1話終盤で東大中退のバツイチ子持ちであることが明かされる。一馬との結婚をめぐって、余命いくばくもない父と娘の間にバトルが勃発する。

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