MCU、フェーズ5は中心人物がいない異常事態に 『デッドプール3』が重要な役割を担う?

MCU、フェーズ5は中心人物不在の異常事態

 2023年2月に『アントマン&ワスプ:クアントマニア』が公開され、フェーズ5へと突入したMCU(マーベル・シネマティック・ユニバース)。

 全米脚本家組合(WGA)と全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキの影響により、2024年に公開予定だった『キャプテン・アメリカ:ブレイブ・ニュー・ワールド(原題)』、『サンダーボルツ(原題)』などの作品が延期に。2024年に公開される映画は、『デッドプール3(原題)』1作となった。

 その後に控える『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ(原題)』、『アベンジャーズ:シークレット・ウォーズ(原題)』を含め、全体の計画にどこまで影響があったのか。今後のMCUについて、アメコミライターの杉山すぴ豊氏と光岡ミツ子氏に聞いた。(編集部)

ジョナサン・メジャースの問題

『アントマン&ワスプ:クアントマニア』©Marvel Studios 2023

ーー2023年は、ラスボスになる予定だったカーン役のジョナサン・メジャースが、有罪判決により降板になったりと、今後のMCUを揺るがす大きな出来事がありました。

杉山すぴ豊(以降、杉山):光岡さん、ズバリ聞きますがジョナサン・メジャースが降板になってカーンは違う役者さんになると思いますか? それともカーンの存在自体がなくなるのでしょうか?

光岡ミツ子(以降、光岡):この間ケヴィン・スミス監督が自身のポッドキャストでカーンの役を「テレンス・ハワードがやったら面白いんじゃないか」って話していたのが面白かったんですけど(笑)、私としてはカーンって設定が複雑になりがちなのがどうかなと思っていて、それがノイズになり得るから仕切り直して別のヴィランを考えてもいいんじゃないかと感じます。

杉山:わかります。カーンは面倒臭いですよね。『アントマン&ワスプ:クアントマニア』の時に光岡さんもカーンの解説記事を書いていると思いますけど、難しすぎません?

光岡:めっちゃ難しいですね。サノスがすごくわかりやすくて良いキャラクターだったのもあります。思想や感情の動き方がサノスは魅力的で、解説記事などで短く書くときはそれを入れるじゃないですか。でもカーンって本当に説明で終わっちゃって、人間的な魅力をどこに感じるのか難しくて。

杉山:ですよね。あとファンタスティック・フォーを絡めないと説明ができないから、そこから難しい。

光岡:まだ映画に出ていないですからね。

杉山:僕もこれはいい口実として、カーンじゃないヴィランにしたらいいと本当は思っています。

光岡:そう考えると、マグニートーやサノスなど、今までの作品のヴィランは本当に映画の悪役にするのに適役でした。

MCU疲れとマルチバースの難しさ

『マーベルズ』©Marvel Studios 2023

杉山:「MCU疲れ」という言葉をいろんな人から聞きますが、僕も光岡さんも疲れようが疲れまいが観てきた人には関係ないですよね。

光岡:別にね。生きているのとアメコミを観ることは同じなので、自分の場合だと「生きることに疲れた」みたいなことになっちゃう。

杉山:僕もそうだからわかります。まあでも、『アベンジャーズ/エンドゲーム』が終わった後にコロナが流行したことも大きいですよね。ディズニープラスに加入しなきゃいけなくなったとか。

光岡:確かに。さっき疲れていないと言いましたが少し面倒くさいです、ディズニープラス観るの(笑)。

杉山:『エージェント・オブ・シールド』は全部観なくてもMCU映画が楽しめましたが、ディズニープラスのものは観ないと楽しめないんですよね。と言いつつ僕はディズニープラスのドラマが好きでハッピーではあるんですが。

光岡:そうですね。私は『エージェント・オブ・シールド』に限らず、全部のドラマを観てきましたが、ある意味、宿題が増えましたね(笑)

杉山:確かに、それはありますよね。『マーベルズ』も事実上『ミズ・マーベル』の映画版でしたし。

光岡:そうですね。

杉山:X(旧Twitter)で「『マーベルズ』は、『劇場版ミズ・マーベル 〜マーベルが集まって大騒ぎ!〜』みたいな映画だった」と投稿している人がいて、確かにそういう映画だなと。『キャプテン・マーベル2』ではなかったなと思いました。ただカマラ主体の、あのわちゃわちゃ感がすごくいい感じでした。

光岡:観る人によってはそうじゃないのかもしれないけど、ちょっと設定の難しさがありますね。今、マーベルはそこを整理しなきゃいけないところにきたな、というのが正直な感想です。コミックの『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』の制作秘話を読んだことがあるんですけど、当時作者たちは編集部から「宇宙で活躍するヒーローものはしばらくやらない」って言われたらしいんです。なぜかと言うと、やはり設定が複雑になりすぎて読者離れを起こしたっていうのが2000年頃の編集部の実感としてあったみたいで。1990年代にインフィニティ・ガントレットのサーガが大ヒットした後に、その設定をさらに展開させてキャラクターを増やした結果、読者からすると徐々にわからなくなってしまったんですよね。私は今回、その時のことを思い出しました。やはり宇宙や他の星の話を始めると、急になんかとっつきづらさが出てくるというか。

杉山:マーベルヒーローって、基本的にニューヨークにいてほしいと思うところもありますよね。

光岡:そうなんですよね。だから『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のリブートが始まる時、最初に「宇宙ものをやってもいいけど、アベンジャーズなどは参加させないように」と言われていたらしいんです。宇宙と地球で別々の話をすると話の整合性も取れなくなるわけですね。宇宙の話を入れるといくらでも壮大で面白い展開ができるけど親近感はなくなる。難しいところだなあと今回は感じました。

杉山:誰がなんと言おうと僕は『エターナルズ』が好きですが、あの作品もちょっと宇宙に行きかけちゃったなってところがありますよね。

光岡:そうですね。だから本当にジェームズ・ガン監督の『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』みたいに、宇宙に出ようとなんだろうとそこで私的な、身近なエピソードをやっているならいい。でも、そうじゃなくて「異星間の戦争」とか「宇宙の古代から生きている生命体」みたいな話になると、話を整理するのが難しいところがあるのかなと。それと「カーンは難しい」という問題は、繋がっているんですよね。

杉山:確かに『アベンジャーズ/エンドゲーム』まではわかりやすかったです。マルチバースは難しい。

光岡:まだこれから注視していきたいところですよね。これからMCUで『X-MEN』が始まるじゃないですか。20世紀フォックス(現・20世紀スタジオ)でやった『X-MEN』は壮大なストーリーをほとんどやらなかった。「フェニックス・サーガ」をやっても、フェニックスがどういう生命体かは全然語られないし。ジーン・グレイの頭がおかしくなって、それを愛の力で埋めるみたいな感じで……要するに感情ベースの話を20年間やり続けたわけですよ。最後までコミックの『X-MEN』でやっていたような宇宙に進出していく壮大な話や、ミュータントが独立して国家を作るような、より社会問題を反映した今のコミックの本編でやっている政治的な話を全然やらなかったんですよね。20世紀フォックスの映画は、思春期の男女についての話で終わらせたのがすごく良かったと思います。ただ、今のMCUがやっていることはそこまで突き進もうしていて、本当に難しいですよね。

杉山:そうですね。『X-MEN』の1作目なんて本当に地味な映画で好きでした。

光岡:(笑)。結局最後まで、『X-MEN』というのはチャールズ・エグゼビアとエリック・レーンシャーが出会って2人のケミストリーから作られたところに、いろんな人の想いが絡まったものでした。感情ベースの物語以外のストーリーがあまりなくて、でもそれが良かったと言えば良かった。だからフォックス版『X-MEN』はランダムに1作だけを観ても意味がわからない人はあまりいないと思う。タイムリープの話もありましたが、やはり感情ベースだからわかるんですよ。

杉山:確かにそうですね。『X-MEN』は派手にやるとすごくお金がかかる映画なんですよね。みんな超能力を使うし。MCUはどうしていくんだろうって思います。『デッドプール3』が本格的にX-MENをMCUに導入する映画になるわけで、マルチバースを引っ掻き回すんだろうなと予想しています。いろいろ考えてみると、やはり『アントマン&ワスプ:クアントマニア』でのカーンの説明は難しかったですね。コミックで見たカーン評議会がこんなふうに描かれるんだ、とは思ったけど、あれだけ観てわかる人はいないだろうって。

光岡:そうですよね、ビジュアル的には大喜びしちゃいますが。いろんな次元があってそこにそれぞれ存在しているっていう設定はなんでこんなにわかりづらいのかな。タイムトラベルものはこれまでも映画であったけど、マルチバースはまだ始まったばかりだからですかね。

杉山:『エブリシング・エブリウェア・オール・アット・ワンス』ですら、実はわかりにくかったですからね。でも、『デッドプール3』でMCUも少し上向きになってくれるといいなと思います。

光岡:まあ、絶対面白いものになっているだろうというのは、『デッドプール』シリーズの良いところ、信頼感ですよね。

物語と俳優の関係性

『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』©2019 Columbia Pictures Industries, Inc. All Rights Reserved. | MARVEL and all related character names: © & ™ 2023 MARVEL.

光岡:昔に比べてこまめにニュースは追えていませんが、『アベンジャーズ:ザ・カーン・ダイナスティ(原題)』の監督が降板し、脚本家が変わった件も含めて、MCUは今すごくプランを変えているのではないでしょうか。もともと変えていくスタジオではありましたけどね。

杉山:変えましたよね。

光岡:今回ヴィラン(カーン)をどうするかという話も、もう詰めていると思います。

杉山:僕は、『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』について、トビー・マグワイアとアンドリュー・ガーフィールドが出演してくれるってなったから、あの脚本になったと思っていて。MCUはそういうところもありますよね。

光岡:『デッドプール3』でも過去の『X-MEN』に出ていたキャストや、『エレクトラ』のジェニファー・ガーナー、『ブレイド』のウェズリー・スナイプスの出演の噂がありますもんね。しかしそれは、出てくれる人が出てくれるって言っているだけでのお祭りでしかない。要するに、マルチバースというストーリーありきというより、そういうさまざまな事情に動かされていて、その全てが上手くぴたりと収まればいいけど、ここのところぐちゃぐちゃになっちゃったなとか、急に変えたなって観客からは見えちゃう時もある。そうじゃなければいいなと思います。

『マーベルズ』©Marvel Studios 2023

杉山:俳優でいうと、個人的に『マーベルズ』公開時にブリー・ラーソンにアンチがいるのかなと感じました。

光岡:いますね。『ブラックパンサー』の時にも「『ブラックパンサー』が気に入らないから、レビュースコア荒らそうぜ」みたいなことがネットで起きていて、そのあと映画レビューのシステムが変わって公開前のレビュー投稿ができなくなったはずです。しかし当時は、公開前に悪口をたくさん書き込んで1点のスコアをつけまくる動きがありました。『ブラックパンサー』の全米公開日にレビューサイトを見ていると、どんどん映画を実際に観た人のレビューに入れ替わって、何時間かしたらスコア平均が4.8になっていた。その入れ替わりに目を奪われて、徹夜して朝まで様子を見ていました(笑)。しかし『キャプテン・マーベル』でも全く同じことが起きてしまって、それはもっと酷かったんです。「女性ヒーローだからって悪いほうに特別視されている」という趣旨のラーソンの発言を嫌ったアンチが悪いレビューをつけていました。もちろん、公開されるとまた全部オセロみたいに変わったのですが、『ブラックパンサー』の時の2倍くらい酷かったです。やはり「女性ヒーローだから特別視しないでほしい」とか「女性ヒーローだから応援してほしい」とか、もう何を言っても一部の人にはとにかくダメで。要するに、極端に言えば女性ヒーローが目立つこと自体に腹が立つわけですから。

杉山:それも酷い話ですよね。僕はブリー・ラーソンのキャプテン・マーベル、すごくカッコよくて好きで、ホットトイズを即買いしましたから。

光岡:一部の人がネットで目立つだけで、そういう声はすごく見えやすいんです。キャプテン・マーベルって笑わないし、愛想がないキャラクターなんですよ。セクシーなわけでもない。女性ヒロインはセクシーか愛嬌がないといけない、という先入観があるから「別にそうじゃなくてもいいじゃん」という映画のスタンスが(一部のファンは)気に入らなかったんですよね。でも、MCUファンはキャプテン・マーベルのことを普通に好きじゃないですか。

杉山:そうですよね。ブリー・ラーソンのバッシングはひどいものがありました。

光岡:それでも「辞めるつもりはない」とどこかで発言しているのを『マーベルズ』公開後に見たので、ちょっと嬉しかったです。

杉山:『マーベルズ』も楽しい映画ではありましたけどね。

光岡:やはりあの3人は良いですよね。マーベルは本当にキャスティングが常に的確だと感じました。

杉山:敵のダー・ベンも良かったけど、ヴィランがやっていることがちょっとよくわからない時は盛り上がりがないですよね。

光岡:そうですね。結局、宇宙とかスーパーパワーとか全て観客に関係のないことじゃないですか。それをどう関係あることだと思わせるのかがアメコミ映画の肝だと思っていて、MCUは最初それをうまくやったからすごい成功を収めたわけです。しかし、ここのところ観客とのコネクトがうまくいっていない。それはやはり、設定を説明するのにいっぱいいっぱいになっているからだと思います。

『シャン・チー/テン・リングスの伝説』©Marvel Studios 2021

杉山:確かにそれはそうですね。『シャン・チー/テン・リングスの伝説』も設定を説明するのが結構大変そうでした。

光岡:そうなんです。しかし、物語のキーになっているのは「親子の絆」だから感情移入ができるし、中国の古典とかみんなに馴染みのある設定も取り込まれていたからすごく良かった。ただ、今回の『マーベルズ』は残念なことにどこをフックにして感情移入していけばいいのかわかりませんでした。まあ、猫がかわいいっていうのはあるけど。

杉山:杉山:確かに。ちなみに僕が一番感情移入できたのはカマラのお母さんでした。そういう意味でもカマラ・ファミリーの話でしたね。

光岡:『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』にあった、心が掴まれる瞬間がもう少しあってもよかったかな。。それは『ミズ・マーベル』でやったから、もういいだろうって思ったのかもしれないけど。

杉山:ああ、確かにそれはそうかもしれない。『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』は泣くくらいエモーショナルでしたからね。

光岡:やはり、ああいうふうに作らないとダメなのかなって少し思いました。あれも難しいですけどね。お涙頂戴みたいになっても良くないし。

杉山:しかし、その辺はジェームズ・ガンの上手いところですよね。

光岡:ファンタジーと監督の私的な思いなどが、うまく設定と絡むことができないとやはり難しいかなって。フォックスの『X-MEN』シリーズは本当に、そこはよくできていたと思います。

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