『マーベルズ』北米でMCU史上最低のオープニング成績 “スーパーヒーロー疲れ”顕著に

『マーベルズ』MCU史上最低の北米興収に

 マーベル・シネマティック・ユニバース(MCU)にとって史上最大の試練である。最新作『マーベルズ』の北米オープニング興行成績が、『インクレディブル・ハルク』(2008年)を下回ってMCU史上最低記録を更新した。11月10日〜12日の週末ランキングでは首位となったものの、週末興行収入は4700万ドルにとどまっている。

 MCUの歴史上、過去に北米初動興収が6000万ドルを下回ったのは、『アントマン』(2015年)の5722万ドルと、『インクレディブル・ハルク』の5541万ドルの2作のみ。『マーベルズ』のオープニング成績は6000~6500万ドルと予測されていたが、これらの数字を大きく下回るスタートとなった。6月に公開され、興行的不振が話題となったDC映画『ザ・フラッシュ』の5504万ドルにもはるかに及ばなかったのだ。

 海外市場での成績も厳しい。計51市場で6330万ドルを記録し、世界興収としては1億1000万ドルという滑り出しとなったが、ディズニー/マーベル・スタジオとしては最低1億4000万ドル以上のスタートを見込んでいたという。製作費として2億2000万ドル、世界の宣伝・広報には1億ドルを費やしたが、もはや黒字化はほぼ不可能。興行的な失敗は回避できそうにない。

『マーベルズ』©Marvel Studios 2023

 『マーベルズ』はMCUの第33作で、映画としては『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー:VOLUME 3』以来、およそ半年ぶりの新作となった。主演はキャプテン・マーベル役のブリー・ラーソンで、本作は『キャプテン・マーベル』(2019年)の続編という位置づけ。監督には『キャンディマン』(2021年)が高く評価された新鋭ニア・ダコスタが抜擢され、MCU史上初の黒人女性監督作品となった、エポックメイキングな一作でもある。

 それがまさか、同名ホラーゲームを映画化し、劇場公開と同日に配信がスタートした『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』(初動興収8000万ドル)に大敗を喫するとは、いったい誰が予想しただろうか。なぜ、このような事態を招いてしまったのか?

 原因のひとつだと指摘されるのは、全米映画俳優組合(SAG-AFTRA)のストライキだ。7月14日に始まったストの影響により、組合所属の俳優は出演作のプロモーションを一切行えず、数々の新作映画が興行的な失敗を余儀なくされてきたのである。ストは『マーベルズ』の公開前日、11月9日に終了したが、ブリー・ラーソンら出演者たちはほとんど宣伝活動に参加できなかった。

『死霊館のシスター 呪いの秘密』©2023 Warner Bros. Ent. All Rights Reserved

 ところが、『マーベルズ』の興行的失敗は、このストライキに大きな影響を受けたものではないとみられる。なぜならストの実施期間中、北米の映画館を賑わせたのは、俳優のプロモーションに左右されないシリーズ映画/フランチャイズ作品だったからだ。前述の『ファイブ・ナイツ・アット・フレディーズ』をはじめ、『死霊館のシスター 呪いの秘密』や『イコライザー THE FINAL』、『パウ・パトロール ザ・マイティ・ムービー』、『Saw X(原題)』。俳優による具体的な宣伝活動に依存しないフランチャイズパワー、言いかえれば一種の“キャラクター力”こそが、映画館に人々の足を運ばせたのである。現代のポップアイコンによるコンサート映画『テイラー・スウィフト:THE ERAS TOUR』も、見方によってはそのうちのひとつだと言えるだろう。

 そしてMCUは、2010年代のハリウッドで最強のフランチャイズパワーを誇る存在だった。『マーベルズ』の前作にあたる、キャプテン・マーベルの初登場作品となった単独映画『キャプテン・マーベル』が大ヒットしたのは、同作が『アベンジャーズ/インフィニティ・ウォー』(2018年)と『アベンジャーズ/エンドゲーム』(2019年)の間、すなわちMCUの最盛期に公開されたためでもある。

 ところが、『アベンジャーズ/エンドゲーム』以降、MCUのフランチャイズパワーは目に見えて衰えてきた。コロナ禍によりハリウッドが完全停止した2020年を経て、マーベル・スタジオは2021年以降、映画作品のみならず、ディズニープラスにてドラマシリーズを大量に展開。熱心なファンでさえ追いつけないほどの作品数を矢継ぎ早に発表したことで、昨今よく聞かれる「スーパーヒーロー疲れ」を引き起こしたのだ。

 米Fandomの調査で、マーベルファンの84%が「MCUの勢いに圧倒されている」と答え、全体の3分の1以上が「(MCUへの)疲れを感じている」と回答したのは、今からちょうど1年前、2022年11月のこと(※)。作品数の増加に伴い、一作ごとのクオリティが下がってきたことも指摘されている。

『マーベルズ』©Marvel Studios 2023

 『マーベルズ』の歴史的不振は、こうした一連の経緯と分かちがたく結びついている。前述のように、『マーベルズ』は『キャプテン・マーベル』(2019年)の続編だが、ドラマ『ミズ・マーベル』(2022年)の主人公ミズ・マーベル(イマン・ヴェラーニ)が映画に初参戦し、同じくドラマ『ワンダヴィジョン』(2022年)からモニカ・ランボー(テヨナ・パリス)も合流した作品でもあるからだ。

『マーベルズ』©Marvel Studios 2023

 すなわち、MCUの映画だけを追ってきたファンにとって、『マーベルズ』の主要人物3名のうち2名は“まるで知らないキャラクター”なのだ。映画を観るためにドラマ2本(あるいはそれ以上)の予習が必要だというイメージは、ただ鑑賞へのハードルを上げることにしかならない。このフランチャイズ戦略は、本作を『キャプテン・マーベル』の続編ではなく、むしろ“テレビドラマの映画版”だと思わせてしまった可能性もあるだろう。

 『マーベルズ』の場合、作品自体への評価も手痛かった。最近のMCU映画は『エターナルズ』(2021年)や『ソー:ラブ&サンダー』(2022年)、『アントマン&ワスプ:クアントマニア』(2023年)と、およそ2本に1本は低評価を受けてきたが、『マーベルズ』も同じ轍を踏んだのだ。Rotten Tomatoesでは批評家スコア62%で、評価数が増えたことで辛うじて「好評(Fresh)」の基準を超えたものの、当初は「悪評(Rotten)」だった。観客の出口調査に基づくCinemaScoreでは、『エターナルズ』と『アントマン&ワスプ:クアントマニア』と同じ「B」評価となっている。

関連記事

インタビュー

もっとみる

Pick Up!

「映画シーン分析」の最新記事

もっとみる

blueprint book store

もっとみる