『ブギウギ』水川あさみが体現した圧倒的な母親像 涙なしで見られないスズ子との別れ

『ブギウギ』水川あさみが体現した母親像

 ツヤを観ていると、母という存在の大きさを感じる。それを業の深さと言い換えることもできなくはないが、それ以上に自身を犠牲にしても我が子を守ろうとする覚悟と尽きることのない愛情に圧倒される。嘘を背負い、罪の毒に苦しみながら、なおスズ子と六郎(黒崎煌代)の幸せを願う母親の根源的な姿を、水川あさみはこれ以上ない演技で体現した。

 母と娘の最後の会話。甘える娘を抱き寄せながら、ツヤは幸福感に満ちていただろう。本当の親ではないことを黙っていた自分を許し、母親として愛してくれた。それでもう十分である。スズ子が差し出した桃を食べた時、少なくとも気持ちの上でツヤは一瞬でも病気が“治った”と思う。スズ子の歌唱は後悔を洗い流し、人生の苦しみを忘れさせてくれるような甘美さをともなっていた。

 ツヤとスズ子の関係性は、後のスズ子と娘のエピソードであらためて見直されることになるはずだ。ちなみに桃の挿話は、幼かったスズ子(澤井梨丘)が夢うつつで自身の出自について知らされる最初の機会であり、全てを知って許し合った時に、娘から母に返還される。母になることを象徴するアイテムであり、桃が簡単に見つからず、出所不明だったことも母娘の数奇な運命に符合する。

 ツヤの死はスズ子が将来母になることを暗示しており、『ブギウギ』の新章を予告するものだ。ツヤはスズ子に「もっともっと売れなあかん」と言い残した。戦火の時代を超えてブギとウギのリズムへ、本作の行進は続く。

■放送情報
NHK連続テレビ小説『ブギウギ』
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:趣里、水上恒司、草彅剛、蒼井優、菊地凛子、水川あさみ、柳葉敏郎ほか
脚本:足立紳、櫻井剛
制作統括:福岡利武、櫻井壮一
プロデューサー:橋爪國臣
演出:福井充広、鈴木航、二見大輔、泉並敬眞、盆子原誠ほか
写真提供=NHK

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