『ブギウギ』水川あさみが体現した圧倒的な母親像 涙なしで見られないスズ子との別れ
『ブギウギ』(NHK総合)第8週は喪失と別離を描く。第39話では、スズ子(趣里)を見守る太陽のような存在だったツヤ(水川あさみ)が最後の時間を過ごした。
電報でツヤの危篤を知らされたスズ子は、舞台を終えて大阪へ飛んで帰る。待っていたのは、憔悴した母の姿だった。がんに侵された病床のツヤに、スズ子はアホのおっちゃん(岡部たかし)が持ってきた桃を差し出した。翌朝、スズ子は番台に立つツヤを目にする。心配する梅吉(柳葉敏郎)にツヤは「まだ死ねるかいな」と声を張り上げ、周囲の人々を驚かせた。
その直後、ツヤは倒れる。無理が祟ったのだろう。看病するスズ子に、ツヤは「ごめんな。ワテ、あんたともっともっとおりたかったわ。あんたと少しでも長く」と詫びる。スズ子も目に涙を浮かべて「お母ちゃんが危篤や聞いても、すぐ戻ってけえへんかった。歌、歌てたんや。もっともっと大きな歌手になりたあて、歌てた。ワテ、どアホや」と謝った。
ツヤは、そんなスズ子を「どアホで上等。さすがワテの子や」と褒める。手を取り「あんたが生きるんをもっと見たかった」「あんたの歌もまだまだ聞きたかった」と笑顔で返した。「ワテの歌、もっと聴いてえな。聴いてくれな困るわ」と泣きじゃくるスズ子は、「許さへん。死んだら、二度とお母ちゃんには歌聴かせたらん」と駄々をこね、そんなスズ子をツヤはいとおしそうに見つめた。
梅吉の乱入で実現した即席リサイタルで、スズ子は「恋はやさし野辺の花よ」を歌う。涙をこらえ、母との思い出、家族で過ごした楽しい時間を思い浮かべながら、一句一句噛みしめるように歌った。幸せそうに拍手を送るツヤは、その日のうちに天に召された。
ツヤの人生について考える。香川から連れ帰ったスズ子を、ツヤは実の母親に勝るとも劣らない愛情で育てた。血のつながらない子どもを我が子と同じように大事にするツヤは、人情に篤い心の大きな人であった。一方で、第38話で梅吉に「何があってもスズ子をキヌに会わせんといてほしいねん」と言い、スズ子を独占しようとする母親のエゴもあった。
事情があるとはいえ、ツヤの中にはスズ子を実母のキヌ(中越典子)から引き離したことの罪悪感があったはずだ。本当のことを知ったスズ子は自分の元を離れていくのではないか。不安が消えることはなく、ツヤがスズ子に献身的に尽くしたのは、その不安を打ち消すためでもあっただろう。