『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』から考えるシリーズの展望

『デジモン』シリーズの方向性を考える

 10月27日に『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』が公開された。2000年前後に玩具やゲームとして人気を博したキャラクターが登場したTVアニメ『デジモンアドベンチャー』シリーズ。本作はその2作目である『デジモンアドベンチャー02』の劇場版作品ということもあり、懐かしむ方々も多いのではないだろうか。今回は本作の特徴とともに、『デジモン』シリーズの展望について考えていきたい。

 かつての主人公であった本宮大輔ら、選ばれし子供たちが大人になり、デジモンたちと共に新たなる危機を迎える様子が描かれている。『デジモン』シリーズの劇場版としては前作にあたる『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』に引き続き田口智久が監督を、大和屋暁が脚本を務める。

 前作の『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』は、まさにデジモン世代である観客が、過去の思い出と共にデジモン作品との卒業を感じられる作品だった。八神太一とアグモン、石田ヤマトとガブモンの2つのコンビが中心に描かれ、大人になることでデジモンとの別れを体験しなければいけないという切なさも残った。全てのキャラクターが活躍するわけではないが、キャラクター数を絞ることにより、伝えたいテーマを絞った作品だった。

 一方で『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』は、その逆の作品といえるだろう。主要な登場人物とデジモンは全て登場し、当時の主題歌を流しながら、進化バンクを現在の技術で再現し、懐かしのデジモンたちを見せてくれる。懐かしいデジモンたちが完全体、究極体に進化して戦闘を繰り広げる姿も楽しめ、このシリーズに望んでいたことを全て観せてくれる作品となっていた。

 今作ではキャラクターの個性とパートナーデジモンとの絆が強く出ていた。特に主人公の本宮大輔とブイモンのコンビは、実直な熱血主人公で思い立ったら突っ走るという姿が描かれていた。TVシリーズでは時に暴走してしまう部分もあったが、今作では年齢を重ねて成長したことにより一定の自制を保ちつつ、物語の停滞感を突破する力を持った主人公として魅力を発揮した印象だ。ゲストキャラクターである大和田ルイが過去に囚われているからこそ、呪縛を振り解き、困難を突破していく力と明るさが印象に残った。

 映像表現としてはTVシリーズ当時の面影を残しつつも、時に挑戦する姿勢が窺えた。冒頭の大輔が働くラーメン屋店内でTVを観るシーンでは、選ばれし子供たち5人とパートナーデジモンも登場しキャラクターが多く難しいカットだったが、細かく動き回り仲間としての一体感があった。今作では長回しによるテンポ感をいじることによって、緊張感を生み出す演出も見受けられた。ルイが母親により外に追い出されるシーンでは、うずくまる姿を長く間を空けて描くことによってルイの絶望感と、ウッコモンとの出会いが希望に感じられるように演出されていた。

 またルイの絶望感をより強くするために、ウッコモンとの関係性が大きく変化する場面では、グロテスクとも受け取れる表現を活用していた。もちろん、今作は子どもでも鑑賞できるように映倫が指定するG区分の範囲内ではあるが、ホラー表現として大人でもゾワリとするような映像になっており、ルイが抱える闇の深さを観客も体感する内容となっていた。

 『夏へのトンネル、さよならの出口』も手がけた田口智久監督は、こちらでは青春期の少年少女の感情が観客に伝わるように演出を行っていた。今回はシリーズものということもあり、その作家性がとりわけ強いということではないが、全体を通してキャラクターの感情が伝わるようにその手腕が発揮されている点は似ており、若手演出家・監督としてその力量を示した形だ。

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