『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』から考えるシリーズの展望

『デジモン』シリーズの方向性を考える

 映像、キャラクター表現と評価したいポイントが多い一方で、やはり触れなければならないのは『デジモン』シリーズの方向性が見えなくなっている点だ。1999年に放送されたTVアニメ『デジモンアドベンチャー』は大ヒットを記録し、主題歌の「Butter-Fly」とともに現在の30代を中心に大きな支持を集めた。その後は『デジモンアドベンチャー02』など多くの作品が作られ、高校生に成長した八神太一が主人公の作品として2015年から始まった『デジモンアドベンチャー tri.』のシリーズも公開された。

 そして『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』と、今作が公開に繋がるのだが、全体を通して今シリーズをどのような着地点に導きたいのかが見えてこない。『デジモンアドベンチャー02』の最終回では、主要登場人物たちのその後として2027年時の姿が描かれているのだが、そこに向かう道のりとしても迷子になっている印象がある。

 『デジモンアドベンチャー LAST EVOLUTION 絆』と今作の繋がりにおいても疑問を抱いてしまった。大人になることによりパートナーデジモンとの別れを感動的に描き、ひいては『デジモン』第1世代がその思い出を懐かしむ卒業式のような内容だった前作に対して、本作はその設定がうまく生かされていないのだ。

 主要登場人物たちも大人となり、年齢からするとパートナーデジモンとの別れが近づいているにも関わらず、そのことに一切触れられていない。その中でパートナーとの別れや、デジモンと人間が接触しない可能性について触れられても、前作で感動したあの話はなんだったのか? という思いがどうしてもつきまとう。ましてや、『デジモンアドベンチャー02』最終回の2027年では全ての人にパートナーデジモンが1体いることが明かされている。その道に辿り着くのであれば、今作の危機を今回は回避したところで、いずれは別れをもう一度迎えることになるのではないだろうか?

 さらに大きな視点で『デジモン』シリーズのアニメ作品全体を見た場合、1つ1つの作品は評価できても、シリーズ全体でどのような道筋にしていきたいのか、いまいち見えてこない。『デジモンアドベンチャー tri.』も含めて、八神太一たちのゴールが決まっているからこそ、そこに辿り着く道筋が迷子になっており、今作もその1つになっているような印象だ。

 ある種の成長しない主人公として八神太一や本宮大輔の物語を続けるという選択肢や、逆に全く新しい主人公をたてることも可能だが、『デジモン』シリーズの場合は最終回の2027年に向けて物語を紡ぐことを選択していることは間違いないようだ。それなれば『02』の最終回である2027年のゴールを目指して、シリーズ全体を総括するような新たな傑作を生み出してほしいとかつてのファンは切に願う。

■公開情報
『デジモンアドベンチャー02 THE BEGINNING』
全国公開中
出演:片山福十郎、野田順子、ランズベリー・アーサー、高橋直純、朝井彩加、遠近孝一、山谷祥生、浦和めぐみ、榎木淳弥、松本美和、M・A・O、徳光由禾、緒方恵美、釘宮理恵
原案:本郷あきよし
監督:田口智久
脚本:大和屋暁
キャラクターデザイン:中鶴勝祥
デジモンキャラクターデザイン:渡辺けんじ
アニメーションキャラクターデザイン:立川聖治
音楽:富貴晴美
スーパーバイザー:関弘美
アニメーション制作:ゆめ太カンパニー
製作:東映アニメーション・東映
配給:東映
©本郷あきよし・東映アニメーション・東映
公式サイト:https://www.toei-anim.co.jp/movie/digimon-adventure/

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