『初恋、ざらり』などから考える“普通”とは一体何か 小野花梨&風間俊介が選ぶ未来

『初恋、ざらり』“普通”とは一体何か

 一方で、8月9日に配信された宮藤官九郎監督作『季節のない街』(ディズニープラス)は、“普通”という概念から切り離された場所が舞台となっている。本作で描かれるのは、大災害から12年が経った、とある仮設住宅で暮らす人々の姿だ。被災者だけではなく、ホームレスの親子や不法滞在の外国人をはじめ、様々なワケあり住人が揃う中で特に異彩を放っているのが電車好きの少年・六ちゃん(濱田岳)だ。六ちゃんは自分を電車の運転手と思い込んでおり、他の人には見えない線路をいつも走っているが、周りの人たちも六ちゃんを変な目で見るでもなく、無理に関わるでもなく、ただ放っておいている。一方で、六ちゃんは自分と違う母親のことをどこかおかしいと思っているようで、毎日仏壇に「母ちゃんの頭が良くなるように」とお祈りしているのだ。そんな互いをどこか“まともじゃない”と思いながら、敢えて口には出さず、異なる属性を持った人々が共存するその場所に“多様性”を見出すこともできる。

ドラマ『初恋、ざらり』

 だけど、障害を一つの“個性”と捉えることには違和感を持つ人が多いだろう。それが障害のある人への特別扱い、つまりは今ある様々な支援の撤廃に繋がる可能性もなくはない。有沙が“普通”になりたいあまりに、療育手帳を返すと言い出したように。岡村はそんな有沙の気持ちを尊重しようとするが、彼女の母・冬美(若村麻由美)に「やめてよ、お金もらえなくなっちゃうじゃん」と反対される。冬美は障害者手当としてもらえるお金を貯金していたのだ。そこには、自分が亡き後も有沙が生きていけるようにという母親としての愛情と責任感が滲んでいた。

 障害は障害として捉え、より生きやすくなるように有沙に療育手帳を持たせながらも、「おんぶに抱っこじゃなくて、支え合うのよ」と出来ないことに挑戦させる冬美。一方で、岡村は“普通”に憧れる有沙と対等な目線で向き合おうとしているが、「いるだけでいい」と無意識の内に彼女を保護する立場になっている。有沙にとってはもしかしたら岡村といるほうが心地よく、救われた気持ちになるのかもしれない。だけど、果たしてそれは有沙のためになるのか、岡村のどっちつかずな態度が結果的に有沙を苦しめることにはならないのか、という不安も同時に湧き上がってくるのだ。この“ざらり”とした質感が本作の魅力であり、共生社会を作る上で大事な問いと私たちを強制的に向き合わせてくれる。有沙と岡村が葛藤の末に、どんな未来を選ぶのか。残り数話となった本作が提示するラストを見届けたい。

■放送情報
ドラマ24『初恋、ざらり』
テレビ東京ほかにて、毎週金曜24:16~放送
出演:小野花梨、風間俊介、尾美としのり、熊谷真実、西山繭子、浜中文一、若村麻由美
原作:ざくざくろ『初恋、ざらり』(CORK/KADOKAWA)
脚本:坪田文、矢島弘一、池田千尋、紡麦しゃち、藤沢桜、上野詩織
監督:池田千尋、七字幸久、倉橋龍介
チーフプロデューサー:祖父江里奈(テレビ東京)
プロデューサー:北川俊樹(テレビ東京)、廣瀬雄(東北新社)
OPテーマ:a子「あたしの全部を愛せない」(londog)
EDテーマ:ヒグチアイ「恋の色」(ポニーキャニオン)
音楽:元倉宏、小山絵里奈
制作:テレビ東京/東北新社
制作協力:楽映舎
製作著作:「初恋、ざらり」製作委員会
©「初恋、ざらり」製作委員会
公式サイト:https://www.tv-tokyo.co.jp/hatsukoizarari/
公式X(旧Twitter):@tx_koizara
公式Instagram:tx_koizara

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