『らんまん』の構成力には驚くばかり 天才と“凡庸”を描く『アマデウス』に重なる作劇
万太郎と田邊の関係はミロス・フォアマン監督の映画『アマデウス』で描かれたモーツァルトとサリエリの関係を思わせる。
天才音楽家・モーツァルトの才能を理解し認めていたからこそ、凡庸な宮廷音楽家・サリエリは嫉妬に苦しんだのだが、植物学者としての万太郎の才能に対して一番理解を示し、尊敬していたからこそ、田邊は焦りと嫉妬を感じていたのだろう。
第18~21週では、そんな田邊の姿を淡々と追いかけていき、出世競争から転落して大学を辞め、あっけなく命を落とす姿を見せていく。社会的立場で言えば圧倒的なエリートである田邊が在野の研究者の万太郎を失墜させる姿は普通なら「許せない」と感じる行為だが、どうにも憎めない。むしろ、万太郎を追い詰めたはずの田邊の方が精神的、社会的に追い詰められているように見える。そんな田邊にいつしか視聴者は同情し、万太郎以上に身近な存在としてシンパシーを感じてしまう。
『アマデウス』でサリエリは、才能に恵まれなかった自分を凡庸な者たちの頂点に立つ「凡庸なる者の守り神」だと語る。万太郎という天才を認めながらも激しい嫉妬に身悶えする田邊教授は、私たち凡庸な視聴者の代弁者だったのかもしれない。
■放送情報
NHK連続テレビ小説『らんまん』【全130回(全26週)】
総合:午前8:00〜8:15、(再放送)12:45〜13:00
BSプレミアム・BS4K:7:30〜7:45、(再放送)11:00 〜11:15
出演:神木隆之介、浜辺美波、志尊淳、佐久間由衣ほか
作:長田育恵
語り:宮﨑あおい
音楽:阿部海太郎
主題歌:あいみょん
制作統括:松川博敬
プロデューサー:板垣麻衣子、浅沼利信、藤原敬久
演出:渡邊良雄、津田温子、深川貴志ほか
写真提供=NHK