『らんまん』の構成力には驚くばかり 天才と“凡庸”を描く『アマデウス』に重なる作劇

『らんまん』の構成力には驚くばかり

 NHK連続テレビ小説『らんまん』が第21週を終えて、一つの区切りを迎えた。

 2023年度前期の朝ドラとして放送されている本作は、「日本の植物学の父」と呼ばれる牧野富太郎をモデルにした青年・槙野万太郎(神木隆之介)の物語だ。

 土佐にある由緒ある造り酒屋「峰屋」の跡取りとして生まれた万太郎は、幼少期から植物に興味を持ち、独学で研究。やがて峰屋を姉の綾(佐久間由依)に任せ、植物について学ぶために上京する。

 東京大学植物学教室の教授・田邊彰久(要潤)のはからいで、大学への出入りを許されるようになった万太郎は、植物学雑誌を刊行し、西村寿恵子(浜辺美波)と結婚する。日々の暮らしは決して豊かとは言えなかったが、万太郎の研究は次第に認められるようになり、彼の名は国内外で知られることとなる。

 その後、日本中の植物を網羅することを目的とした『日本植物志図譜』も第二集まで刊行し、娘の園子も生まれ、万太郎は幸せな生活を送っていた。しかし、「ムジナモ」の論文を共著としなかったことに田邊教授が激怒し、大学の出入りを禁止される。

 その後、万太郎の身には次々と不幸が押し寄せる。姉の綾が切り盛りする峰屋で腐造が起こり、峰屋は廃業。娘の園子が麻疹で死去。頼みの綱としていたマキシモヴィッチ博士が亡くなったことで、ロシアで植物の研究をするという夢も断たれてしまう。

 紆余曲折はあったが、万太郎の人生は順風満帆だった。何より彼は多くの人に愛されてきた。初めは衝突していた人たちも、植物に対する知識と情熱、精密画の才能、何より「天性の人たらし」とも言える人間的魅力に触れることで、彼を好きになっていった。

 寿恵子との結婚までを描いた前半パートは、そんな万太郎の幸せな日々が描かれていた。万太郎の魅力によってすべてが丸く収まっていく展開は、ご都合主義的すぎやしないかと思うこともあったが、万太郎を演じる神木隆之介の人懐っこい芝居の力もあってか、男性主人公の朝ドラとして、毎回楽しく観ることができた。

 しかし、田邊教授の怒りを買って以降、まるでオセロの駒が白から黒にひっくり返っていくように万太郎の人生は暗転する。

 これまでの『らんまん』には、万太郎の世界がゆっくりと広がっていく面白さがあり、明治を舞台にした青年の立身出世の物語として、とても心地よい物語となっていたのだが、この痛快な前半があったからこそ、この展開の辛さが何倍にも響く。

 同じ時期に不幸が重なっていく展開は、史実を踏まえていることを差し引いても「人生、うまくいかない時は何をやってもうまくいかないし、悪い事は重なるものだよなぁ」と、納得させられた。

 この人生の緩急の見せ方は見事で、脚本を担当する長田郁恵の構成力の巧みさには舌を巻く。

 『らんまん』のような過去に実在した偉人の物語をベースにした朝ドラは、どこまでを史実通りに描き、どこまでをフィクションとして描くかのバランスが、とても難しい。

 何かを成し遂げた偉人の多くは、一般常識からはみ出した天才である。だからこそ常人には成し遂げることができない偉業を達成できた。それは牧野富太郎も同様で「植物学の父」としての偉業の裏には、家族が犠牲になることも厭わずに学問のために散財する常軌を逸した部分があった。その光と影のコントラストこそが実在した天才の魅力だと言えるが、この影の部分をそのまま映像化すると、朝ドラの枠から大きくはみ出してしまう。

 そのため万太郎は、天才としての光の部分が強調され、闇の部分はぼかされているが、代わりに描かれたのが、田邊という天才と出会ってしまった凡庸な人間が、光と闇の間で揺れ動く姿だ。

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