『呪術廻戦』「懐玉・玉折」を経ての『劇場版 呪術廻戦0』 夏油一派への眼差しの変化

『劇場版 呪術廻戦 0』夏油一派への眼差し

 五条悟と夏油傑の間に何が起きたのか。彼らの青い春の様子が垣間見えた『呪術廻戦』「懐玉・玉折」を観ると、改めて『劇場版 呪術廻戦 0』の見方が変わってくる。

 乙骨憂太という主人公に対し、“悪者”と位置付けられた夏油傑。彼の過去を知った今、新宿・京都で「百鬼夜行」を起こした彼の周辺にいる人物たちの解像度も少し高くなったのではないだろうか。「懐玉・玉折」、そして劇場版は、共にアニメ第1期の前日譚にあたるため、「渋谷事変」までのおさらいとして見返す方も少なくはないだろう。各動画配信サービスで配信され、Netflixにおいては常に「今日の映画TOP10ランキング」にその顔をのぞかせる『劇場版 呪術廻戦 0』。多くの人が再び本作に触れる今だからこそ、そこで描かれた“夏油一派”と呼ばれるキャラクターたちを、「懐玉・玉折」を経た眼差しで見つめなおしてみたい。

 劇場版の中で、夏油は宗教団体の教祖として信者から金と呪霊を募っていた。彼にとって、信者である非術師たちは人間ではない。“猿”だ。そのうちの一人の男が献金できなくなることを知ると、夏油は何の迷いもなく呪霊を使った惨い形で彼を殺す。彼が信者に対して酷い扱いをしているのは、「懐玉・玉折」で描かれた「盤星教」へのトラウマが原因と思われる。彼らの拍手の音が耳の奥から消えない。そんな彼は自分を精神的に追い詰めた旧「盤星教」信者を従え、自分の理想の世界を作るための糧にすることにしたのだ。意識的なのか無意識的なのか定かではないが、一度は五条悟が「殺す」と言ったのを制し“守ってしまった”信者たちに対する、彼なりの“逆襲”とも言える。

 あの夏、孤立を極めた夏油だったが、その10年後の彼は孤独ではない。彼の思想に賛同し、一緒に理想の世界を作ろうとする“家族”の存在がある。それが夏油一派だ。その筆頭は彼が村から救った双子の少女・枷場美々子と菜々子。夏油が父親代わりになって育てた。彼は離反後、高専の目から逃れるためでもあるが極力非術師と関わらない生活を送ってきた。その一方で、美々子と奈々子が“猿”だらけの街・原宿にクレープを食べに行きたいとせがむと、一緒についていってあげる優しさもある。

 そんな彼を「夏油様」と呼び、メンバーの中でも一際慕い、崇拝する彼女たちは夏油を邪魔する者、侮辱する者を許さない。どちらの術式も詳しくは現時点で明かされていないが、美々子は手持ちの首を吊った人形を、菜々子はその携帯電話を使うことが暗に仄めかされている。ちなみに彼女たちの苗字に含まれる「枷」は罪人の手足にはめるものであり、夏油が発見した時折檻されていた2人を物語っている。

 実は夏油一派のほとんどのメンバーが術式を含め詳細を明かされていない。劇場版でも存在感を放った、秘書的な役割を務める菅田真奈美は、夏油の味方についた理由が“イイ男”だったから(公式ガイドブック参照)。しかし彼女が夏油と同じように非術師を蔑んでいたことは、目の前で人間が死んだ時、その血が靴につきそうになったことをひどく嫌がった様子からもわかる。一方、夏油は禪院真希と戦った後、彼女の血を踏むことを厭わなかった。その差にも、彼の揺らぎのようなものが感じられて物悲しい。

 菅田真奈美と同じく、存在感を発揮していたラルゥ(ハートのニップレスのあの人)も術式が明かされていない。ちなみに彼(または彼女/彼ら)が夏油の味方についた理由も、彼が“イイ男”だったからというのが理由であることが公式ガイドブックにて明かされている。では、皆が夏油の顔しか見ていないのかと言ったら、そういうわけでもない。存在感がやや控えめではあるが、顔の傷が印象的な祢木利久(ねぎ・としひさ)もまた、美々子や菜々子と同じように夏油に救われた存在だというのだ。

 そして、何と言ってもミゲル。アフリカ出身のミゲルは、海外にやってきた夏油にスカウトされて仲間に入った。「百鬼夜行」の際に “あの”五条とのタイマンを10分以上、怪我を負わずに耐え抜いたことから彼が相当強いことも証明されている。言ってしまえば、これから五条が強い相手とやり合えばやり合うほどミゲルの株が上がってしまうのだ。その強さの要因の一つでもあった、彼の使う特級呪具・黒縄は相手の術式を乱す効果がある。母国の術師が何年もかけて編む必要がある、希少性と呪力が高いものを駆使したからこそ死なずに五条をいなせたのかもしれない。黒縄など、アフリカならではのブードゥー的な雰囲気が取り入れられている呪物を使う点も、 ミゲルが“呪い”をテーマにした本作で面白い存在感を放つ要因になっているだろう。

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