生田絵梨花が“元カノ”だからこそ? 『こっち向いてよ向井くん』のほろ苦いノスタルジー

『向井くん』のほろ苦いノスタルジー

 共感できるか否かというポイントを、映画やテレビドラマの良し悪しの判断基準のひとつとしている人も少なくないだろう。特にテレビドラマの場合は1クールという長い期間付き合っていくのだから、それもあながち不必要な観点ではない。筆者の場合は職業柄などの事情からあえてそれを忌避するように心掛けているのだが、結局自分と同じぐらいの年齢のキャラクターが主人公になった物語となると、どうしたって時折チクチクと刺激されるものがあることは否めない。

 現在放送中の『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)で赤楚衛二が演じている主人公の向井くんは33歳。会社勤めで実家暮らしで10年間も恋愛経験がなくて、大学時代に付き合って10年前に別れた元カノの美和子(生田絵梨花)のことを引きずっている。よくよく考えるまでもなく年齢が筆者とひとつ違いのこと以外は何ひとつ共通点がないため、自分と重ね合わせることは難しいのだが、かといってまったくの他人事のように思えないほど、彼には不思議なシンパシーを覚える。強いていえば、きっと自分の身近な友人のなかにも“向井くん”がいるのだろうな、と。そんな感触である。

 10年前の別れ際に相手から言われた「守るって何?」という言葉の答えを見つけ出せないまま、「守りたいものができれば守れる男になれるはず」と、久々に恋愛へのスイッチを入れた向井くん。第1話では職場に新しくやってきた派遣社員の中谷(田辺桃子)が自分に好意を寄せていると勘違いし、第2話では義弟の元気(岡山天音)の店のアルバイトのアンちゃん(久間田琳加)からのアプローチに舞い上がりながらも、10歳下の相手のペースに応えられない。

 そして第3話と第4話では、もはや“恋愛”することをすっ飛ばし、3年ぶりに再会したチカ(藤間爽子)と“結婚”に向けて動きだすのだが、相手が考えるいくつもの現実的な部分との齟齬に行き当たる。このあたりから、妹の麻美(藤原さくら)たち夫婦の物語と“結婚観”や“男女の役割”といったテーマが交差して描かれるようになる。向井くんと麻美の夫・元気の男性側に共通しているのは、わりと理想めいたふんわりしたものにもたれかかっていることであり、彼らはそこから解放されるとまではいかないが、なんらかの“気付き”を与えられていくのである。

藤原さくら、岡山天音

 とまあ、こうした前半の流れを振り返ってみると、初めは「こんなにわかりやすい奴いるかよ」と笑い飛ばせるような、ある種のファンタジーだった物語が、急激に30代前半男性の多くが現在直面しているであろう“変革”に向き合う現実的なドラマへと変貌していく。そして第4話のラストカットでついに現在の時間軸に美和子が現れ、“変革”というものは現在という一点から未来に向かってあるものではなく、過去まで全部遡って初めて成されるものであると示される。“起承転結”でいえば極めて明確な“転”ではあるが、実はここが“起”なんだと言われても充分すぎるほど納得ができる。

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