『逃げ恥』『けもなれ』から『向井くん』へ “結婚”の呪縛を解き放つ恋愛ドラマ

『向井くん』が解き放つ“結婚”の呪縛

 恋愛している時には気のあった関係性でも、いざ結婚を前にすると、急にこれまでの恋愛モードからスイッチが切り替わって、(一時的に)ぎくしゃくしてしまうカップルを描いた映画やドラマは多い。

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 『逃げるは恥だが役に立つ』(TBS系/以下、『逃げ恥』)では、平匡(星野源)の家で家事代行を仕事として受けていたみくり(新垣結衣)のふたりが、「契約結婚」をする間柄となり、さらに愛情が芽生えたときに、急に平匡はこれまでみくりが有償でやっていた家事労働は無償でやるものと考えてしまう。

 以前のドラマであれば、結婚とは性別によって役割分業があるものと考え、好きな人のために家事をすることはあたりまえ、それどころかむしろ愛情を表すもので、幸せを感じるものと描かれていたものが多かった。だが、『逃げ恥』ではみくりは、そうとは考えていないため、平匡と対話を重ね、ふたりだけの関係性を築いていく。

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 『逃げ恥』と同じく野木亜紀子が脚本を担当したドラマ『獣になれない私たち』(日本テレビ系/以下、『けもなれ』)では、派遣社員として働いていた会社で共に仕事をする中で「気の合う同僚兼友達」となり、やがて恋人となった晶(新垣結衣)と京谷(田中圭)。しかし京谷は、自分の父親のことを「母さん守って、家守って、家族愛して、幸せにする男」と語り、それが理想であり、自分もそうありたいが、まだそうはなれていないと感じている(それ以外にも、京谷が前の彼女をいまだに家に住まわせていたという理由もあるが)。その後、晶と京谷はすれ違って別れることになる。

 坂元裕二脚本の映画『花束みたいな恋をした』(以下、『花束』)でも、麦(菅田将暉)と絹(有村架純)は、学生時代にたまたま知り合い、サブカルチャーの話題で意気投合してつきあうこととなり同棲を始める。だが、ふたりが就職し、麦が仕事に忙殺される中、結婚を考えるようになると、急に「責任」を語るようになる。その温度差などが理由で、やはり麦と絹は別れてしまう。

 前置きが長くなったが、『こっち向いてよ向井くん』(日本テレビ系)もまた、こうした恋愛や結婚に対しての男女のスタンスのズレを描き、その経験から向井くん(赤楚衛二)が徐々に学び、変化していく姿を描いている。

 向井くんも、男性は女性を「守る」ものと考えていて、普遍的な家族像を思い浮かべてしまうようなキャラクターであった。第1話でも、10年前につきあっていた彼女の美和子(生田絵梨花)に「ずっと守ってあげたい」と告げるも、美和子から「守るって何?」と聞き返され、その後別れた過去が描かれていた。

 向井くん自身は、このときのことを「今のあなたに私が守れるの?」と美和子から問いかけられていると捉えており、現在も「給料も上がったし、仕事も余裕出てきたし、今の俺なら……。俺だって守りたいものができたら、守れる男になれる、はず」と考えている。

 しかし、向井くんが義理の弟の元気(岡山天音)の経営するバーで出会った洸稀(波瑠)からも、「守るって何?」「何からどう守るのか、わかんない」「私は、守りたいなんて言われたら、見下されてるなーと思っちゃいます」と言われ、向井くんは、10年間の勘違いに少しだけ気付いて愕然とするのだった。

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