『すずめの戸締まり』『BLUE GIANT』も人気? インドエンタメ界に日本アニメ流行の兆し

インドエンタメ界に日本アニメ流行の兆しあり

 インドにおいて日本のエンタメ、特にアニメや漫画、特撮といったコンテンツは全く流通していなかったわけではない。かつては特撮『ジャイアントロボ』(1967年)も放送されていて、東野圭吾原作の『ブルータスの心臓-完全犯罪殺人リレー』(光文社)をインドで映画化した『愛しのモニカ』(2022年)の主人公ジャヤントもジャイアントロボからとっているのと、実際に劇中でジャイアントロボのTシャツを着ているシーンもある。

 他にも『忍者ハットリくん」や『おぼっちゃまくん』『クレヨンしんちゃん』『ドラえもん』などの作品はケーブルテレビを通じて観られてはいるが、どれも子ども向けで日常の延長線上のような作品が多かった。

 このように、従来のインドにおける日本のアニメやコミックの熱狂的なファンはいないわけではないが、かなり少数派だったと言えるだろう。

 なぜ子ども向けの作品に流通が偏っていたかというと、インドにおいてアニメや漫画というものが、子ども向けのコンテンツという印象が強かったからだ。そのため流通している作品自体が限られており、インド制作のアニメ作品も子ども向け作品の割合が圧倒的に多かった。

アメコミ作品のヒットがもたらしたカルチャーの変化

 しかし2010年代後半に入ってから、インドにおけるアメコミ事情が変化することでその環境が変わり始めた。

 サム・ライミの『スパイダーマン3』(2007年)の記録的ヒットを受けて、インドでもコミックやグラフィックノベルの流通基盤を開拓しようという動きが活発化したのだ。反対に、アメリカでもインドの神話を題材としたコミックが流通し始めた。

 そしてこの時期に誕生したのが、現在日本で公開中の映画『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』でも大きな活躍をみせていた「スパイダーマン・インディア」である。

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 日本と同様に、スパイダーマンはインドの中でも圧倒的な人気を誇る海外キャラクターであり、『スパイダーマン:アクロス・ザ・スパイダーバース』も10言語バージョンが公開された。アニメ映画としては異例の扱いだ。その人気は、東西南北全て含めた“インド映画界の巨匠”とされているサタジット・レイもかつて『スパイダーマン』のインド映画化を考えたこともあるというほど。

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 もともとインドのコミック自体はアメコミをベースとしているため、日本のような週刊誌タイプではなく、リーフもしくはTPB(トレード・ペーパーバック)で流通している。内容もヒーローものが多く、マーベルやDCの作品もそれに混ざって流通していたし、インドにおけるヒーローのデザイン基盤にはアメコミヒーローの存在がある。そして2000年代に入ってから、本格的な流通が目指されるようになった。

 それによってアニメやコミックへの意識が変わり始めた。冒頭で触れたように、アニメやコミックは子どもが楽しむものであって、「大人がコミックを読む、アニメを観る=“オタク”」と思われていた。

 実は少し前まではアメリカでもそういったイメージがあった。アメコミはコミックショップで購入するもので、日本のように一般の書店やコンビニに売っているようなものではないのだ。

 ところがMCUやDCが映画やドラマをヒットさせ続けたこと、そしてオタク文化がひとつのカルチャーとして受け入れられるようになってきたことから、そういったイメージは次第に薄れてきた。それはインドにおいても同じ流れを踏んできたのだ。

『すずめの戸締まり』や『BLUE GIANT』も劇場公開された

 そういった流れの中でインターネットや配信サービスが普及したことにより、多様なジャンルの海外作品、そして日本のアニメも同時期に配信されるようになっていった。

 どれもこれも、というわけではないが、『ドラゴンボール』や『ONE PIECE』『僕のヒーローアカデミア』といった『週刊少年ジャンプ』作品は、ここ数年で圧倒的に知名度が上がったといえるだろう。

 それに加え、劇場でも日本のアニメ映画が劇場公開されるようになってきた。『すずめの戸締まり』や『BLUE GIANT』、先日公開された『THE FIRST SLAM DUNK』とバラエティに富んでいて、『劇場版 ソードアート・オンライン -プログレッシブ- 冥き夕闇のスケルツォ』や『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』まで公開されている。

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 日本のアニメだからといって全て人気かというと、まだ人気の温度差があり、作品によっては観客がほとんど入っていないという状況も珍しくはない。それでも積極的に上映しようとしている動きには、日本のアニメやコミックを定着させようという思惑を強く感じる。

 その証拠としてインドでも2011年からコミコンが行われていて、その中での日本のエンタメ作品の扱われ方も変化しているのだ。

 インドのコミコンは、デリーから始まり、今ではムンバイやバンガロール、チェンナイ、ハイデラバードなど各地でも開催され、年々需要が増してきている。

 もともとはマーベルやDC、海外映画を中心としたイベントだったが、ここ数年で日本のアニメも目立つようになってきた。最近はインドの路面店でもアメコミヒーローや日本のアニメグッズを販売する店もちらほらと出てきている。

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