『THE FIRST SLAM DUNK』は濃密な“試合観戦”だ 原作未読だからこそ体験できた熱狂

映画『スラムダンク』は“試合観戦”だ

「三井がスタメンなのに体力全然なかったのってさ、最近まで不良であんまりバスケやってなかったからなんだよ」

 シアターから退場しようと席を立った際、前に座っていた、おそらく原作ファンと思われる方が知人へ補足解説する会話が耳に入ってきた。原作未読者だった自分はその時、「映画を観たあとでキャラクターについて語るファンの声を聞く人」ではなく「高校バスケを観に来て、母校の選手について話すOBの声を聞く人」になっていた。

 『THE FIRST SLAM DUNK』は、思わずそんな錯覚をしてしまうほどの「試合観戦体験」だった。

映画『THE FIRST SLAM DUNK』公開後PV 30秒 【絶賛上映中】

 興行収入100億円を突破した本作は、バスケットボール経験者も唸るような映像表現が凝縮された作品として大きな話題を呼んでいる。それらは原作者でありながら脚本・監督を務めた井上雄彦氏自身と、彼を中心とするスタッフ陣によるチームプレーの賜物と言えるだろう。

 制作会社の東映アニメーションやダンデライオンアニメーションスタジオが関わる作品の『ドラゴンボール超 スーパーヒーロー』にも共通するが、2Dと交互に観ても違和感なく、その上で漫画家の絵を再現性高く3D化する技術にまず驚かされた。本作はバスケシーンでは3D、その他シーンでは主に2Dが用いられている。その切り替えに気づくことはあっても鑑賞の妨げになることは一切なかった。

『THE FIRST SLAM DUNK』は3DCGアニメのメルクマールに 恐るべき“心理的な時間感覚”

映画『THE FIRST SLAM DUNK』のオープニングシークエンスは、同作のコンセプトをわかりやすく表している。  サラ…

 そういった映像や音響などの映画を構成する要素が最大限生きていたのは、バスケットボール特有の身体の動きや空間把握、そして生きている人間に対する、井上監督の解像度の高さ無くしては語れない。

 コート内外での人々の動きやそれによって生まれる音、視線のひとつひとつにもリアリティと納得感があり、「キャラクターが描かれている」というよりも「人間がそこにいる」という方が近い感覚になってくる。宮城が流川へパスを出すか、という瞬間でも三井は息を切らしながら走っているし、ベンチにいる木暮も一緒に闘っているから、視野外にいても声援はしっかり聞こえてくるのだ。

 ひとりの漫画家の頭の中が再現される画期的なアニメーション映像を前に心からワクワクしていたが、とあるシーンで思わず息を止めるほど熱中することができたのは、その瞬間までの過程で描かれる、選手それぞれの回想と心理描写があってこそだった。

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