『一流シェフのファミリーレストラン』にみる真の創造性 かつての“アメリカ映画”がここに

『The Bear』にみる“真の創造性”

 Yes, chef! いよいよ“The Bear”のリニューアルオープンだ。『一流シェフのファミリーレストラン』(以下、原題『The Bear』と表記する)待望のシーズン2が7月26日よりディズニープラスで配信される。ハリウッドが全米脚本家組合、全米俳優組合による63年ぶりの同時ストライキに突入したことで、ほぼ全ての作品の製作がストップ。これはTVシリーズも例外ではなく、Netflixなどストリーミングプラットフォームの登場によって隆盛を極めたTVドラマの黄金期“PeakTV”は事実上、終焉を迎えた。

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 この全盛期の最終盤に現れたのが、FXによるTVシリーズ『The Bear』。舞台はシカゴの下町にあるサンドイッチ店“The Beef”。ニューヨークの一流レストランで新進気鋭のシェフとして注目を集めていた主人公カーミー(ジェレミー・アレン・ホワイト)は、自ら命を断った兄マイケルに代わって店を引き継ぐことになる。古びた店内はあちこちにガタが来ており、経営は借金だらけ。我の強い料理人ばかりが揃った厨房のシステムは滅茶苦茶。孤軍奮闘するカーミーのもとに、彼を慕って一流料理学校出身の若者シドニー(アイオウ・エディバリー)がやって来る。

 “厨房もの”といえば、狭い料理場をカメラがドキュメンタリーのように動き回り、怒号と罵声が行き交う戦場の如き描写が売りの1つ。近年もレストランのディナータイムを90分間1ショットで撮影したイギリス映画『ボイリング・ポイント/沸騰』が話題を呼んだが、ロンドンの高級料理店よりキャパも小さければ単価も低いThe Beefは混沌の極み。編集、撮影、キャストアンサンブルの三拍子が揃ったエネルギッシュな厨房描写は本作の大きな見どころで、大混乱に陥った厨房を放送時間21分のうち約17分間に渡ってワンショットで撮影した第7話は圧巻だ。しかし、私たちがジャンルの定番として楽しんできた描写も、元を辿れば想像を絶するパワハラにある。レストラン業界における労働搾取は2022年の映画『ザ・メニュー』でも風刺されたばかり。カーミーは一流店で名を馳せたものの、ハラスメントの横行する劣悪な職場環境によって心に深い傷を負っているのだ。

 人は“システム”を変えることができるのか? 豪放磊落だった亡き兄マイケルがいてこそ店は個性の異なる料理人たちが一致団結し、地元民に愛されてきた。内気なカーミーに同じことはできない。自分が何とかできる範囲に秩序をもたらそうと彼はフランス料理店の厨房システム“ブリゲード”を導入。各人が担当部署に専念する流れ作業方式は、互いの仕事への信頼とリスペクトが必要不可欠。古参料理人のティナ(ライザ・コロン=ザヤス)はカーミーを「シェフ」ではなく「ジェフ」と呼んで新システムを揶揄し、フロアを担当する従兄弟のリッチー(エボン・モス=バクラック)も執拗に「システムを変えるな」と言い続ける。亡きマイケルを慕うばかりに意固地で、時に手に負えない柄の悪さを見せるリッチーだが、彼の言う「その場所を知り、愛と経緯を知らなくちゃいけない」という言葉には、旧いものにこだわり続けることにとかく批判的な目を向けられがちな昨今、本作の重要なテーマの1つが託されている。

 そんな彼らが慣れないながらに互いを「chef」と呼び、次第に「Thank You」と声をかけ合っていくさまは日頃、人間関係に悩む人にも大きく響くはず。『The Bear』の登場人物は何度も衝突を繰り返すが、どんなに激しくぶつかり合っても根底には「おいしい料理を作って人を幸せにしたい」という想いがある。人が1つの場所で共存することはトライアンドエラーの繰り返しであり、その先に一緒に同じ食卓を囲むこともあるかもしれない。そしてまた次のトライアンドエラーを繰り返し、人生は続くのだ。

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